アメリカのトランプ大統領就任から1週間になる。次々と飛び出すトランプ流の新たな指針に、驚愕と落胆が世界で広がっていないか。権力を再び手にしたトランプ旋風はますます、大きく吹き荒れている。1月27日にRKBラジオ『田畑竜介 Groooooow Up』に出演した、飯田和郎・元RKB解説委員長は「領土への野心をあらわにする3人が揃った」とコメントした。その3人とは?

「領土」拡大に意欲的なトランプ大統領

トランプ大統領は、隣国カナダ、メキシコ、それに中国からの輸入品に新たに関税を課すとぶち上げた。不法移民を阻止するために、メキシコとの国境に国家非常事態を宣言し、軍の動員も決定した。WHO(世界保健機構)からの脱退。そして、就任演説ではこんなフレーズもあった。「掘って、掘って、掘りまくれ!」

バイデン政権の政策を転換し、化石燃料の生産を推進すると言った。「パリ協定」(=温暖化対策の国際的枠組み)から再び離脱する大統領令に署名した。ほかにも、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に改める。そして、偉大な大統領ウィリアム・マッキンリーの名前を冠したアラスカにある山の名称を「マッキンリー山」に戻す大統領令に署名した。

マッキンリー山は北米最高峰。冒険家の植村直己さんが41年前に行方不明になった山として知られる。2015年に当時のオバマ大統領が、アラスカ先住民の伝統的な呼称「デナリ」に変更していた。「マッキンリー」はアメリカの第25代大統領の名前で、ほかの国に高い関税をかけたことから、トランプ氏が敬愛している。

山の名称復活は、自分の好きな過去の大統領に敬意を示そう、ということなのかもしれないが、一方、メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に改めるというのは、「あの湾は俺たちのものだ」という意味かも。それに関連して、私はこの部分が就任演説で特に気になった。

「アメリカ人は再び、自らを『成長する国』と見なすようになるだろう。富を増やし、領土を拡大し、都市を築き、期待を高める。新しく美しい地平線に、国旗を掲げていくのだ」

「領土を拡大し」。現在の国境線を外へ変えていくことなのだろうか。トランプ大統領は、デンマーク領グリーンランドの領有を求めている。デンマークでは困惑と反発が広がっている。また、トランプ氏は、カナダを「アメリカの51番目の州」扱いにしているし、パナマ運河を「取り戻す」と繰り返している。

太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河。アメリカが運河建設の大部分を担い、完成後には管理権を握っていたが、パナマに全面返還して四半世紀が経過する。

領土への野心を強く持つ大国リーダーは他にも

「領土」の話だが、中国、ロシアという、現在、そして今後の世界情勢に不安をもたらす大国のリーダー、習近平主席、プーチン大統領は共に、領土への野心を強く持っている。そして、新たにトランプ大統領がそこに加わった、という構図だ。

ロシアのウクライナ侵攻から2月で、丸3年になる。同じくウクライナ領のクリミアを、ロシアが併合したのは2014年のこと。国際社会はそれを認めていないが、ロシアは現在も実効支配を続けている。プーチン大統領は、そのクリミアと、ウクライナ東部の4つの州を、自分たちのものだと主張している。

そして、中国だ。中国は、沖縄県の尖閣諸島の領有を主張しているほか、南シナ海の島々を、歴史的にも自国の領土だと言っている。

中国はかつて、国際法上の裁定(決定)文書を「紙くず」と言い放ったことがある。中国は、南シナ海のほぼ全域の主権を今も主張している。一方、国連海洋法条約(=海洋に関する権利・義務などを包括的に規定した多国間条約)に基づく仲裁裁判所は2016年、中国の主張には「法的な根拠がない」と否定する判決を出した。その際に、仲裁裁判所の裁定文書を「紙くずに過ぎない」と切って捨てている。

その5年後の2021年にも、中国外務省は、南シナ海をめぐる仲裁判断について「違法、無効な紙くずだ。中国は受け入れない」と再び言っている。

南シナ海では今も、重火器を装備した中国船が、フィリピンやベトナムの船に、妨害活動を繰り返している。国は実効支配した島々を、急ピッチで要塞のように整備している。