マドゥロ氏を支援する中国の存在
マドゥロ氏はまさに独裁者だが、多くの人が選挙結果を疑うのに、これほどまでの独裁体制を敷けるのはなぜなのだろうか? 理由の一つはそんな大統領を支援する国があることだ。ベネズエラは原油の埋蔵量が世界一。石油掘削については長くロシアが支援してきたが、近年では中国がそうだ。中国はベネズエラで採掘された石油の最大の輸入国でもある。価格の安い石油を求めて、中国はベネズエラに多額の投資、それに政府への多額の融資を繰り返してきた。
「政権交代が起きたら、これまでの投資が無駄になったり、関係が覆されてしまう」――。中国にはそんな懸念もある。わかりやすい例を挙げよう。ベネズエラの中央選管が大統領選挙の結果を公表した時のこと。その正当性に国際社会は大きな疑念を持った。だが、中国は違った。わずか数時間後に、習近平主席は、勝利宣言したマドゥロ氏にこんな祝電を贈っている。
『中国とベネズエラは信頼し合う、良き友人であり、共に発展する良きパートナーだ』
『中国はこれまで同様、国家の主権、民族の尊厳、社会の安定の維持に向けたベネズエラの努力を断固として支持する。外国からの干渉に反対するベネズエラの正義を断固として支持していく』
ベネズエラは南米大陸の一番北側にある。地理的に近いアメリカからは、経済制裁を受けている。そうなると、大国と言われる国の中では、中国を頼りにする。マドゥロ氏は大統領として過去に5回も中国を訪れている。その5回のうち、実に3回が公式訪問だ。先ほど2013年に暫定大統領になったと紹介したが、真っ先に訪問した国の一つが、太平洋をはさんだ遠い中国だった。
アメリカや、欧州主要国だけではない。ベネズエラと同じ南米でもアルゼンチン、チリ、ペルーなど7か国も選挙結果を認めていない。経済が厳しい状況にあるベネズエラにとって、中国は「命綱」といえる。「近くの親戚より、遠くの他人」ということかもしれない。
ベネズエラは中国の出先機関のような存在
中国からすれば、アメリカの近くに、そのアメリカと対峙する友好国が存在することは、地政学的にも意義がある。もう一つ、例を挙げる。8月末、中国外務省の記者会見でこんなやりとりがあった。中国国営メディアの記者が、「ラテンアメリカの国々からアメリカに対して、不満の声が上がっているが」と外務省スポークスマンに質問した。
このコーナーで何度か紹介してきた通り、中国の外務省は国営メディアに質問内容を指示し、質疑応答の形をとりながら、自分たちの主張をする。質問した記者は、対米批判をするメキシコ、キューバなど国名を挙げたあと、「ベネズエラではアメリカからの内政干渉に非難の声が出ている」と、ベネズエラの国の名前を出した。それを受け、スポークスマンは、用意した答えを読み上げた。
『アメリカは、ラテンアメリカの国々の懸念や正義の声に耳を貸さず、我が道を行くべきではない。アメリカに対して、時代遅れのモンロー主義と介入主義をいち早く放棄するよう、ご忠告申し上げる』
時代遅れのモンロー主義。「アメリカは偉そうに自分たちの優位性を主張するな」ということだ。アメリカの裏庭・中南米で、アメリカの影響力が低下し、きょうお話ししたベネズエラのような反米勢力の存在は心強い。
ベネズエラは、南米における中国の出先機関、代理店のような存在かもしれない。「アメリカが手にして、測ろうとする物差しだけが世界の物差しではない」ということだろう。
中国とベネズエラ。この2つの国の共通点として、独裁的なパワーを持った指導者の存在、権威主義国家、民主的なルールや、人権を軽視する――。いくつも共通点があるように思える。
中国からすれば、外交や経済など、自分たちが目指す国づくり、国際秩序づくりに、沿う相手なら、だれとでも、どこにあっても手を組む。支援を惜しまない――ということなのだろう。ベネズエラのマドゥロ氏は、国内が落ち着けば、早い段階で北京へ行くかもしれない。
ベネズエラだけではない。かつてソ連の衛星国として、暗黒の時代を経験した東欧(=東ヨーロッパ)でも、セルビアやハンガリーなどで、指導者が専制的な動きを進めている。そして、これら国々と中国との蜜月関係は、確実に強まっている。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。