「’負け’をあなたで取り戻したかった」

涌本さんは6年前、大阪のきょうだい会に入会。障がい者のきょうだいたちと悩みを共有することで、心が時ほぐれていく思いがしたという。きょうだい会に入った涌本さんに、母は「障がい者を産んだ’負け’をあなたで取り戻したかった」と告げたという。
涌本祐子さん「それで母は、ことさら私に厳しくしていたんだ…と妙に腑に落ちたんです。」
知られたくなかったことを学校の先生に暴露されて

涌本さんは、今問題となっているヤングケアラーでもあった。家庭では、身体的にも障がいがある兄の入浴を手伝いながら、一緒に風呂に入るよう言われていたが、小学校5年のある日、担任の先生がクラスメイトの前でそのことを褒めたという。「涌本さんは頑張ってますね」と。
思春期の入り口にいた涌本さんは、兄と一緒に入浴していることを知られて恥ずかしくなり、母に「もう今日からお兄ちゃんとは風呂に入らない」と宣言した。
担任の先生は、涌本さんを励ますつもりで言ったのかもしれない。しかし、ヤングケアラー問題に詳しい、元西南学院教授・安部計彦さんは障がい者の兄弟姉妹を激励する場合は、配慮が必要だと話す。
元西南学院教授・安部計彦さん「偉いねと言われると、もっと頑張らなきゃいけないと思ってしまうケースもあります。その結果、そこから逃げられなくなったり、きょうだいの世話は嫌だ、と言えなくなってしまったり。ヤングケアラーを支えたいと思うならば『今のあなたでいいんだよ』ということを言い続けて関係性を作っていく。そこから本当の支援が始まると思います。」
学校での嫌な思い出はほかにもある。「障がい者の妹なのだから、面倒を見ることになれているだろう」と、障がいを持つ学友の世話を担当させられたことだ。
涌本祐子さん「そのこと自体がイヤなわけではないんです。友達だからその人ができないことを私がする、というのはいいんです。でも障がい者の妹だから…という理由で任されるのは嫌だったんですね。ほかの人と違う、とは考えて欲しくないし、私には特別なことをしているという意識はないので」