今から61年前、きょうだいに障がい者がいる人が互いを支えあう「全国きょうだいの会」が東京に設立された。現在は全国に10の支部があり250人の会員がいる。
5月、その全国大会が福岡で開かれ、そこでのディスカッションは、「兄・姉が障がい者」である「弟・妹グループ」と、年下のきょうだいが障がい者である「兄・姉グループ」に分かれて行われた。

全国きょうだいの会会長の林浩三さんはこう話す。
「全国きょうだいの会」会長林浩三さん「きょうだい問題の難しさは、きょうだいたちの数だけ違った悩みがあること。兄・姉といった年上の立場と、弟・妹といった年下の立場でも大きな違いがあり、私たちでもまだ知らない問題が多いです」
仲良しの兄…しかしある日母から告げられた言葉は・・・

大阪府から参加した涌本祐子さん(52)は、知的障がいと進行性の難病・デュシェンヌ型筋ジストロフィーを抱える2歳年上の兄・哲(あきら)さんと育った。
涌本祐子さん「生まれた時から障がい者の兄がいたので、その存在が当たり前でした」
ニコニコ笑う可愛らしい男の子で、兄妹仲は良かった。また母は福祉の手を借りて兄を介護、涌本さんも「兄が出来ないことを私がやるのは当たり前」というフラットな気持ちで兄と向き合っていたという。
涌本さんに対して母はとても厳しく、友達とケンカをして泣いて帰って来ると、家には入れてくれなかった。「泣くような弱い子は私の子じゃない」というのが母の持論で、「何をやっても負けてはいけない」と言われ続けた。
涌本祐子さん「その思いが重圧になって、極度に負けず嫌いになってしまったり、本当は強くないのに随分強がってウソの自分を演じていました」
「お母さんに絶対嫌われたくない」

施設で療育を受けさせるため、母は毎日兄に付き添った。そのため涌本さんは4歳から保育園に通うのだが、先生にいつも叱られるようになってしまう。
涌本祐子さん「兄に手がかかりすぎて私には躾けが出来ていなかったんです。手洗い、入浴、身だしなみなど全て自分一人で行っていたのですが、やり方を教えてもらったわけではなかったので、きちんと出来ていませんでした。そうすると保育士から『普通の子は出来ているのに、なぜ出来ないの』とものすごく叱られて、時には体罰も受けました。怖くて声も出ず、でも同時に『このことをお母さんに知られてはいけない』と抱え込んだんです」
保育士に叱られている自分を母に知られたくないという気持ちと同時に、自分が通園を渋ったら兄が療育園に通えなくなる、そしたら母が困る、と考えた。母に嫌われたくない、その一心だった。