ホロコーストやジェノサイドに繋がる危険な発想

金さんはかつて広告業界で活躍し、著書もあるという、いわば「言葉の世界」に生きている人です。裁判の意見陳述も表現力豊かで、詩的な表現というか文学的な表現も交えていました。

「自分にとって故郷というのは場所だけじゃなく、自分の価値観とか情緒が形成されるような時期に見たものとか触れ合った人とかそういうものが故郷であって、これは今自分が傷つけられているということだけじゃなく思い出までも毀損されてしまうんだ」と話しています。

一対一で「あなたのことが嫌いだ」と言うことは、僕は風通しよく話せばいいと思うんですが、例えば民族であるとか人種であるとか、あるいは国籍といった、自分では変えることが容易ではない属性がありますよね。「あなたは○○民族だからダメだ」と、その民族をヘイトする、侮辱する、金さんの両親のことなども被告はXに投稿しているのです。

金さんは「人の親をからかうというのは、その民族を劣等民族だと思っているからであって、人間として低い、あるいは人間ではないという扱いは、それこそホロコーストであるとかジェノサイドとか、そういったことに繋がる危険な発想ではないか」と、社会的な見地で話しています。

同級生同士の喧嘩と矮小化するのは危険

金さんの同級生で、鉄の研究で有名な九州大学名誉教授の津崎兼彰さんも記者会見に同席していて、「人というのは産土、自分がどうやって生まれて育んできたかというその環境というのが、その人の尊厳に繋がるわけで、そこを損ねられるというのは、もう単に仲違いとかそういうことじゃない。だから、同級生同士の喧嘩みたいな形で矮小化されるのは一番危険だ」とい話していました。

つまり、日本社会全体の問題ではないかということです。記者会見の様子は「のりこえねっと」のYouTubeチャンネルに動画があり、金さんも津崎さんも僕も出ています。

僕は金さんとはこの日が初対面でした。共通の知人を介して「松尾さんの母校でこんなことが起こっているのを知っていますか」と言われて驚きました。自分も急に当事者意識が湧きました。

僕も進学で東京にやってきた一人で、やはり地元出身の友達は心強いものです。福岡で知り合って東京で生活するときに、寄り添うような気持ちがあったその相手が、あるとき急に「松尾はどこどこの生まれだろ」と言ってネットに書き散らすというのは、想像したくない出来事です。