
地元の現状に警鐘を鳴らす住民もいます。街で生まれ育った46歳の武内孝之さんです。4年前に設立された「鞆まちなみ保存会」の会長を務めています。

鞆まちなみ保存会 武内孝之 会長
「今の現状で観光だけに重点を置いてしまうと、不便な住民が出て行って、空いたところに店が来る。住んでくれればいいですけど、店だけになってしまうと、夜は静かな音がしない町になってしまう」

鞆町の人口は、10年前から1000人余り減り、現在はおよそ3500人。減少の一途をたどっています。加えて、65歳以上の高齢者の割合は48%を占めています。

住みやすい街づくりに向けた施策の1つが道路の整備でした。武内さんは、当初、埋め立て架橋計画を支持していました。

鞆まちなみ保存会 武内孝之 会長
「地元の人の利便性が良くならないと意味がない。埋め立て架橋であれば、家からすぐ近いところにアクセス道路ができるわけであって、今のトンネルではすぐにそういう道に出られるかといえば出られないので、変わらないんですね」

また、架橋計画では駐車場も作られる案があり、観光客にとってもメリットがあったといいます。

武内孝之 会長
「橋を渡っていたら、常夜燈が見える。駐車場がある。じゃあ停めようという流れになるから、観光地で売るんだったら、そっちの方がいいかと」

何も整備されない状況が続くよりは、トンネルの建設によって街が少しでもいい方向に向かってほしい思いもあります。心境は複雑です。

武内孝之 会長
「通勤する車の交通量は減るので、その辺は少しは良くなるかもしれないですけど、鞆のためになるかというと、やっぱり通過していた人のためのトンネルになってしまうんじゃないんかなという」

トンネルだと中心部をう回してしまうため、鞆町を目的地とする観光客は、トンネルではなく、県道を通る現状は変わらないのではないかと危惧しています。

街の中心部で明治時代から続く商店を営む武内さん。

鞆まちなみ保存会として、観光客に生活道であることを知ってもらおうと、注意を呼びかける手作りの看板を道沿いに設置しました。

鞆まちなみ保存会 武内孝之 会長
「いつまでも待たないといけないというのが実際、最近、多いんですよ。そうすると住んでいる人たちはそこを通るのがおっくうになってくるじゃないですか。生活道路なんだけどねという気がしますけど、それって、来た人にはわからないところなので」

武内さんは、トンネルの効果の検証は必要だとしています。開通後も見すえながら、これからも住民と行政の橋渡しができればと話します。

武内孝之 会長
「住民の生活とか不満をなくすことがあって、それからの街づくりだし、それができることによって街並みも守っていけると思っています。(住民が)嫌だな、面倒くさいなと思っているところをなるべく行政と話しながら動くしかないかなとは思っていますけど」

これから鞆のどんな未来が描かれるのか…。総事業費110億円に上る「鞆未来トンネル」などの整備は、2024年3月末の完成を目指しています。
― 住民が暮らしやすくなる街の文化や歴史が引き継がれる土台があってこそ、観光地でもある鞆の街並みが存続される気がします。県と福山市は、トンネルの掘削によって発生する土を使って鞆町の海の2か所を埋め立てて、観光客を受け入れられる施設や駐車場、住民から要望のある広場なども整備し、一体的な街づくりを進める計画です。