
国吉志生(くによし ことは)ちゃん。お父さんの“高い高い”が大好きな女の子です。
先月1歳を迎えたその体重はおよそ5000グラムです。気管切開した首や鼻には様々な管がつながっています。
母・早紀さん
「最初は自分が赤ちゃんを早く産むって感覚がなくて。今すぐ取り出さないとどっちかが死ぬって状況だと朝言われて(妊娠)24週って形ができているのかなんなのかわからないし」
妊娠6か月のとき403グラムで生まれた志生ちゃん。妊婦の20人に一人がかかると言われる妊娠高血圧症が原因でした。

志(こころざし)に生きると書いて「ことは」という名前は『何とか生きてほしい』産んだ瞬間に母・早紀さんの脳裏に浮かんだ名前です。
でもその直後から、自分を責める思いが早紀さんにのしかかりました。
母・早紀さん
「なんてことをしてしまったんだろうみたいな。なんで志生なの、なんで何が悪かったのみたいな感じがずっとグルグルして、(入院中の)周りのお母さんたちも寂しい気持ちを押し殺して、鳴き声やすすり泣きが、隣のお母さんから聞こえてきて、苦しいみたいな」
母親たちにのしかかる産後の不安。経済的なストレスもそれを悪化させます。伊平屋島に住んでいた早紀さんは治療のため、家族と離れ、本島中部や名護での仮住まいが続いていました。
母・早紀さん
「最初は島に帰れるかわからない、それか酸素が取れるまで1年2年間、最低3年とか、ここで生活する方向で考えてもらっていいかなって言われて、えって感じで。お金に困ってしまって、二重生活じゃないですか結局。夜になるとなんで自分だったんだろう、志生だったんだろうっていう思いは毎日出てきます」

医学の進歩に伴って救える命が増える一方で、年々増加傾向にある医療的ケア児。国内にはおよそ2万人がいるとされ、県内にも今年4月時点で446人の子どもたちがいます。
志生ちゃんの事情を知った伊平屋村は未熟児を生んだ母親の宿泊費を助成する条例を作りました。この支援に大いに救われたと言いますが、それでも命の危険をいつも意識する生活に変わりはありません。
父の圭司(けいじ)さんも仕事を休んで毎週末、沖縄本島に通っています。この日は県立北部病院での外来受診です。
父・圭司さん「回転はうまいけど」
伊元栄人医師「もうちょっとでハイハイするんじゃないかと思うんですけどね」
伊元医
「こんなに400グラムで生まれたのが大きくなって成長するのは驚きでしたね。志生の場合は気管切開はあるんですけど、発達に関しては寝返りもするようになっていて、発達をしていると感じています」

志生ちゃんが生まれた中部病院時代から担当医を務める伊元医師。去年施行された医療的ケア児に関する法律では、「医療的ケア児の支援センター」の設置が各都道府県に求められています。
伊元医師はその期待をこう語ります。
伊元医師
「僕たちも最初は手探りでやっていてどういった制度を使えるかとか全く分からない状況で始まっていて、その支援センターができればもうちょっと円滑にいろんな制度の利用が進むんじゃないかなと思います」
「普通に生活することができなかった今までは(法律は)障がいのあるお子さんが生まれることでご両親も仕事ができなくなってということを防ぎたい」
母・早紀さんも志生ちゃんが生まれ仕事を辞めて育児に専念しています。生活の救いは訪問看護師とヘルパーの存在。毎日スタッフが家を訪問し志生ちゃんのお風呂や食事だけでなく、気管切開した管のバンドの交換など医療知識が必要なこともサポートしています。
早紀さんは、今回取材を受けた理由をこう語りました。


母・早紀さん
「小さく生まれて、あのときの自分みたいに、どうなるの?この子みたいな、生きていけるのか、どうなるのかなって思っているお母さんたちも毎日いっぱいいると思うんです。だけど大きくなるよ、大丈夫だよっていうのを伝えたい、大丈夫だよって」
兄・峻礼ちゃん「峻礼が抱っこしたい!」
母・早紀さん「峻礼がだっこしたい、病気もいっぱいすると思うけど、兄妹なかよく大きく育ってくれたらいいなって」

早紀さんはこのとき、名護のアパートを離れ住まいのある伊平屋島に帰ることを決意していました。医療資源の乏しい小規模離島に、気管切開した患者が帰るのは全国初の試みと見られます。
訪問看護師 儀間真由美さん
「私たちにとってもチャレンジですね、でも私たちにとってはチャレンジですけど、そういうお手伝いがしたくてこの訪問看護をやっているので、(今までの患者は)あきらめていたのと、当然島では暮らせないという風に思っていたんだと思います」
母・早紀さん
「続いてくれればいいな、志生が先陣切ってやるからね、この後の子どもたちが頑張ってついてきてだよね」

訪問看護師 儀間さん
「いろいろ帰ってきて困ることもあるかもしれないんですが、それを今はなるだけ最小限にすむように、それでもきっと起きると思うのでそれを乗り越えてもらえたらなと思っています」
母・早紀さん
「あと峻礼と一緒にこんな風に一緒にいれることが夢だったので、いっしょに家族一緒にいられるのがすごくうれしいなって、邪魔ばっかりするんですけど、一生懸命かわいがってくれるお兄ちゃんなので」

家族4人での生活を目指して志生ちゃんは今月、家族と一緒に伊平屋島への試験外泊に挑むことになりました。島での生活の課題と対策を考えるため志生ちゃんが初めて伊平屋島に渡ります。