加藤氏は、戦争の悲惨さを伝える手段として俳句に注目し、昭和30年に刊行された句集「広島」の作品をネット上で公開しているHaiku Projectから紹介した。
『原爆に焼けし乳房を焼けし子に』
この作品についてHaiku Projectでは、「共に被爆した母と乳呑み子、阿鼻叫喚の中で被爆した母親は、焼けただれた乳房を必死に我が子の口に含ませようとしている」と解説。極限状態の中で詩を詠み続けた人々の魂の叫びを、一人でも多くの人に届けたいという思いが伝わる。
『ふつとびし腕がつかみし真夏の土』
「爆風で吹き飛ばされた手が土を摑んでいる。それは原爆によって焼け切った焦土であり、生まれ育った故郷の土でもある。一瞬にして人生を奪われた怒りと未練の拳が、原爆投下直後の光景を我々に想起させる」。加藤氏は「17文字という世界最短の詩形だからこそ、強烈なリアリティを感じさせ、多くの人の想像力を喚起する力がある」と述べる。
『まつしろなごはん八月十五日』
現代日本を代表する俳人の一人、黛執(まゆずみ・しゅう)氏の一句。この俳句について加藤氏は、「終戦したからといって、すぐに白いご飯が食べられるわけではない。数十年後に生まれた俳句だと思います」と述べ、「戦争を経験した人にとっては、今や当たり前となった白いご飯のありがたさが、戦争への戒めとともに感じられるのではないか。これは今行われている戦争、特にガザでの戦争にまさに当てはまる」と語った。