広島では認められた被爆地域外の「黒い雨」

当時の行政区分で線引きされた長崎の被爆地域。「被爆体験者」は半径12キロ圏内の被爆未指定地域にいた人たちを指す国が作り出した呼び名です。

広島では裁判での勝訴をきっかけに被爆地域外の「黒い雨」被害者を救済する新基準が作られ、この2年間でおよそ6千人が新たに被爆者と認められました。


一方、長崎に関しては「被爆地域以外で広島のような雨が降った証拠がない」「降ったとしても線量は低く影響ない」とされています。

この低線量被ばくの影響に関して今月、10年半にわたる議論の末まとめられた報告書が市に提出されました。
評価が分かれる「低線量被ばく」の人体への影響


長崎市原子爆弾放射線影響研究会。医学、物理学、疫学の専門家が最新の文献や情報を収集。被爆体験者区域の線量を最大20ミリシーベルト前後と推定し、その影響について議論してきました。

長崎市原子爆弾放射線影響研究会 朝長万左男会長:
「実際ここら辺(被爆体験者区域)から白血病が出たとかがんが出たとか、地元の開業医の方のカルテはかなりあります。しかしそれが本当に放射線誘発かというのは証明されていなかった。微妙なこの低い線量というのは福島でも起こってるわけですよ」

人体への影響が認められているのは年間100ミリシーベルト以上。しかし近年、この「100」に届かない線量でも人体に影響があることを示す研究結果が出てきており、“低線量被ばく”に関する委員の評価は割れました。

朝長会長:
「最近の一番極めつきはこの論文でしてNature Medicineという医学論文の中では最高の論文です。『《この領域》でも影響がある』という結果が出ています。我々の研究会ではこれを検討しましたけども、委員の一部が、どうも年齢分布とか色々なものが原爆被爆者の場合と異なっていて『簡単には信用できない』というわけですよね。『もう一つ信用できない』とおっしゃったために委員会としては《この領域の低線量》で(人体影響が)起こることを断定することは避けました。してません」

論文は、ヨーロッパ9か国で95万人を対象に行われた疫学調査です。子どもが受けたCTによる低線量被ばくが癌リスクの増加につながっていると報告しています。

朝長万左男会長:
「低線量の影響があることを報告した大きな論文が2つ出てますからね。これは今出たばかりの論文なんで(これから)世界中で評価されていくからね。この1~2年で低線量域の人体影響が非常に議論されると思うんですよね。その結果くらいまで見ないと世界の動向はもう一つ分からないけど、僕はこの論文は二度と出ぬような(重要な)論文だと思いますね」

会長の評価とは裏腹に、報告書はこの論文を「信用できない」とする意見があったとし、低線量被ばくの人体影響について《確固たる知見は得られなかった》と結論付けました。