『フランダースの犬』と進路指導
母はオーケストラの仕事で夜も練習や本番があり、ほとんど家にいませんでした 。他のお家のように、夕方5時の鐘が鳴ったらお母さんがご飯を作って待っているなんて、私には夢のような話でした 。妹と2人で留守番をし、寂しくてたまらないとき、私を幸せな気持ちにしてくれたのが、絵を描くことや、想像でお話を作ることなどでした 。
大人になったら絵描きになりたいと母に言うと、母は困ったようで『フランダースの犬』という本を私に持ってきました 。主人公のネロは絵が上手ですが家が貧しく、最後には見たかったルーベンスの絵の前で、愛犬のパトラッシュと凍え死んでしまう。「絵描きになるというのは、こういうことだよ。かわいそうでしょ」と母は私を脅したわけです 。
でも私は、「このネロという子はなんで誰かが自分を認めるのを待っていたんだろう。運河に船が来るなら、それに乗ってどこかへ行けばよかったのに」と生意気なことを思っていました 。それを聞いた母は「この子は苦労しても絵描きになりたいんだな」と諦めたそうです 。
進路指導の先生にも「絵描きになります」と言うと、「それは趣味だろう。お前、餓死したいのか? 絵なんて経済生産性がない」と散々言われ、落ち込んで帰宅しました 。母にその話をすると、母は「私は札幌交響楽団の初期メンバーとして、女性1人で乗り込んでやってきた。なんとかなるものよ」と言いました 。そして「冬休みにドイツとフランスへ行ってきなさい」と、新宿にでも行くような軽いノリで私を送り出したのです 。







