国会答弁にも登場する“真逆”…市民権は得たのか?
少し固い話になりますが、「真逆」の「真」という接頭辞(接頭語)は、「真鯛」「真鰯」や「真後ろ」「真横」「真っ白」「真っ赤」のように古くから日本語にある和語=大和言葉に付くのが普通で、「真逆」のように音読みの漢語「逆(ぎゃく)」に付く例は珍しいのです。ただ、「真正面」のように漢語に付いた例もありますから、それをもって誤りと言うことはできません。
また、「真逆」と「正反対」が全く同じように使われるわけではないものの、2014年の国会会議録における二つの言葉の発言数では、「真逆」が「正反対」を上回っているとの結果を報告している研究者もいて、フォーマルな会議での話し言葉の世界でも「真逆」がかなり使われる時代になっていることが分かります。
ただ、このコーナーで時々紹介している文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」でも、2011年度の調査で「真逆」について取り上げていて、その調査では、「正反対」のことを「真逆」と言うと答えた人はまだ全体の22.1%でした。世代別に見ると、最も多かったのが16~19歳で62.8%、20代で53.1%、30代で37.5%、40代で28.2%、50代で20%を切り、60代以上だと10%以下という結果でした。10年ほど前の調査ですが、この結果からは、まだ「真逆」が多数派になっているとは言えない状況であることもお分かりいただけるだろうと思います。
以上のことを踏まえると、「真逆」という言葉は決して誤用と言うべき言葉ではなく、新語・流行語と言うべき類いなので、今後の動向に注意すべき言葉であるということ、もし使う場合は、決して伝統的な日本語ではなく、最近の新しい日本語であることを知った上で、フォーマルな場面ではまだ控えるなど、使う場面や相手によって適切に使い分けるべき言葉であることを知っておいていただきたいと思います。
参考:北原保雄編著(2007)『問題な日本語 その3』大修館書店、朝日新聞校閲センター(2018)『いつも日本語で悩んでいます』さくら舎
加藤和夫:福井県生まれの言語学者。金沢大学名誉教授。北陸の方言について長年研究。MROラジオで、方言や日本語に関する様々な話題を発信している。(2023年4月10日 MROラジオ あさダッシュ!内コーナー「ねたのたね」より再構成。)











