大正時代に活躍した作家、島田清次郎を讃え、1994年に制定された島清恋愛文学賞。石川県にルーツを持つこの賞は、その名の通り「恋愛小説」に特化した文学賞として、30年以上にわたり数々の名作を世に送り出してきた。

人間の深層心理に迫る高樹のぶ子の『蔦燃』(第1回)に始まり、複雑な愛と性を描いた小池真理子の『欲望』(第5回)、女性の恋と自立をテーマにした岩井志麻子の『自由戀愛』(第9回)など、その時代の恋愛観を鮮やかに映し出す作品が選ばれてきた。

そして31年目となる今回、選ばれたのはピン芸人・ヒコロヒーの短編集『黙って喋って』。言葉にならない思いや、言葉によって揺れ動く感情の機微を描いた18の物語は、「恋愛小説の可能性を再認識させる」と高く評価された。

受賞を記念し、選考委員であり、自身も『ラプレス』で同賞を受賞した直木賞作家・桜木紫乃との対談が石川県金沢市で実現。創作の裏側から現代の恋愛観まで、そしてヒコロヒーの色恋とは?

「もっと書ける人だろうね」という確信

桜木: この度は、受賞おめでとうございます。選考会では、ヒコロヒーさんの作品『黙って喋って』が学生さんたちから圧倒的な支持を得ていました。私たち選考委員も、その推薦を受けて拝読し、全会一致で決まりました。

ヒコロヒー: ありがとうございます。身に余る光栄です。

桜木: 選考会で全員が一致したのは「人間スケッチの確かさ」と、「もっと書ける人だろうね」ということ。それはヒコロヒーさんの力を認めながら、これからに大きく期待しているということでもあったと思います。

ヒコロヒー: 本当にありがたいお言葉です。

桜木: 私個人の意見としては、とにかく理屈の整った書き手だな、と。短いものを書かせると、その人の力がよく分かるんです。自分の理屈、自分の法廷式で人間を解いていく。そういうものを持った人だという印象が強く残っています。