5回目のマラソンで日本記録を樹立 一躍時の人に

鈴木健吾選手が世界を驚かせたのは'21年のびわ湖毎日マラソン。マラソンわずか5回目で優勝タイムは2時間4分56秒、当時の日本記録(大迫傑選手2時間5分29秒='20年東京マラソン)を33秒も更新し、日本人(非アフリカ系)初の4分台を叩きだし、一躍時の人となった。

ただ元来、控えめなタイプの鈴木選手はその後の取材攻勢について「すごくあそこから注目され始めて、自分が思っていた景色とはやはり違う中で過ごして。心身ともにタフになったなとは思います」と笑顔で振り返る。

それもそのはず、日本記録保持者として臨んだ1年後、去年の東京マラソンでは、レースを前にした当時の心境は穏やかではなかったという。

「びわ湖で4分台を出したが、自分のセカンドベストが10分台だったので、周りからもまぐれなんじゃないかと思われるし、自分でも本当の力だったのかなと自問自答しているところもありました。とにかく次が大事だと思って、そこである程度結果が出せれば自分自身もホッとする部分もあるだろうし、周りも認めてくれるだろうと思っていましたが…」

初めて味わう、目に見えない、また異質とも言える未知の重圧―。

そんな時だった。'21年12月、鈴木選手は女子マラソンのトップランナー、一山麻緒選手との結婚を発表した。

そして3か月後の東京マラソン。鈴木選手は安定感と力強さを兼ね備えた堂々たる走りで2時間5分28秒、日本人トップの4位に入り、日本記録樹立がフロックではないことを証明してみせた。

「実は、直前の徳之島合宿では状態はよかったんですが、(本拠地の)千葉に戻ってからあまり良くなくて、出走も大丈夫かなという状況でのレースだったのでホッとしました」と振り返る鈴木選手だが、妻の一山真緒選手も女子で優勝を成し遂げ喜びも倍増。マラソン界の超ビッグカップルは、揃ってオレゴン世界陸上の切符を掴み、その道は真っすぐ2024年パリ五輪へ向かって伸びていると誰もが信じて疑わなかった。

ところがこの後、鈴木選手は次々に不運に見舞われることになる。