肥大化していく「異形のモンスター」

統合失調症の症状は、治療もむなしく悪化の一途をたどっていく。
洋介被告にとって弘子さんの存在は、いつしか「異形のモンスター」のようにその存在が肥大化していく。

「母親が自分の障害者年金を巻き上げようとしている」
「自分には到底かなわない、超人的な能力を持った恐ろしい存在だ」
「入院させられているとき、院内のパソコンに自分の恥ずかしい画像を回されることがある」

法廷で明かされた洋介被告の世界観には、母親の弘子さんと、精神病院での入院生活に対する恐怖の念が満ちていた。

実際には、小柄な高齢女性に過ぎない弘子さん。
だが、洋介被告が様々な思いを募らせてゆく中で、その存在は拡大され、絶対的な恐怖の対象となっていった。
自らの人生を脅かし、一生病院に幽閉しようとする支配者として君臨していく。

13本のバラとスマホを海に投げ入れる

そしてその日は訪れた。
2025年4月2日。
洋介被告は、早朝に家を出る。
その目的は「海に遺棄された赤ちゃんにバラの花を捧げようと考えた」というものだった。

確かに2023年12月に、松山港で、へその緒がついた状態の女の赤ちゃんの遺体が浮かんでいるのが発見されていて、今も未解決のままとなっている。
そのニュースを、なぜそのタイミングで思い出したのかはわからないが、実際にバラの花を合わせて13本購入した洋介被告は、赤ちゃんの遺体が見つかった現場へと向かうと、バラの花束と合わせて自らのスマートフォンを海へ投げ入れた。

「悼む気持ちで、事件を思い出して」
「13本のバラの花言葉が『永遠の友情』。世界が平和になればいいなと思った、祈りのようなもの。おかしな行動ではないと思った」

そして正午頃。

「ただいま」

洋介被告が自宅に戻ると、不穏な空気が漂っていた。

「どこへ行っていた」

姿が見当たらないことに気付いた弘子さんが、既に警察に行方不明届を出していた。
それを知った洋介被告は、弘子さんに対して怒りを覚える。
ただ、それでもこの時点では理性が働いていた。
心を落ち着かせるため、2階の自室に上がるとタバコに火を点ける。
紫煙をくゆらせ、深呼吸をしていると、1階の玄関付近から、弘子さんの話し声が聞こえてきた。