春男さんからの“突然の知らせ” ターニャは
気づけば、春男さんの足はターニャの自宅へ向かっていた。そして、ドアをノックするとターニャが出てきて「ハルオ、どうしたの?」と尋ねてきた。
「ターニャと結婚するよ」そんな春男さんの心変わりを期待していたのかなど知る由もなかったが、その後の展開など予想すらできなかっただろう。すぐさま、ターニャに切り出した。

「明日、日本へ帰ることが決まったよ」
あの時のターニャの顔は忘れることができないという。しかし、驚いた表情を見せた後、笑顔を見せてこう語った。
「日本へ帰れるなんて良かったわね」
その笑顔は無理に作った表情ではなく、心の底から安堵しているようにも見えた。年頃の単なる恋愛とは異なる、1人の人間として最愛の人の幸せを願う、深い愛がそこにはあったのかもしれない。
シベリアを離れる翌朝、朝陽がシベリアの大地を照らしていた。
【これまでの記事】
・100歳抑留者が初めて明かす 戦後80年の秘密①
・ロシア人女性との“禁断の恋” 命つないだロシア語への執念②
・強制労働先での出会い「瞳は丸く大きかった」③
・忘れられない ターニャの「ボルシチ」④
・「ハルオ、私と一緒になって」 知る由もない祖国の状況・未練⑤
【CBCテレビ論説室長 大石邦彦】










