いつもと違うターニャ

それは思いも寄らない知らせだった。ターニャにも転機が訪れようとしていたのだ。その日のターニャは、笑顔が眩しく白い歯が溢れるいつもの彼女ではなかった。会った瞬間から、少し寂しそうで、やや悲しそうな表情を浮かべていた。

「何かあったの?」春男さんが聞いても、彼女は答えなかった。きっと答えられなかったのだろう。

それを察した春男さんは、何も語らず、彼女が話すまで、話せるようになるまで待つことにした。

なぜだろう、この日の沈黙に違和感はなかった。むしろ、この無の時間がお互いの心を整理する時を作ってくれていたのかもしれない。どれくらいの時間が経過したのだろうか。

ふと横を見ると、ターニャの頬を涙がつたい、その涙を夕陽が照らしていた。

「私、シベリアを離れることになったの」

彼女は、閉じた心の扉をこじ開け、声を絞り出した。

「えっ…」

それ以上、言葉がでなかった。父親の転勤で住み慣れたシベリアを離れ、新しい転属先へ引っ越しをするというのだ。行き先は、ウクライナだった。