鳥取県内でSNSやアプリを利用した詐欺事件が相次いで発生し、県民の暮らしに深刻な影を落としています。今年7月から8月にかけて報告された被害だけでも、その総額は5000万円を超えています。犯人は、恋愛感情や著名人への信頼、警察という権威への畏怖といった人間の心理を突き、周到に準備されたシナリオで被害者を罠にかけます。その手口には、現代社会ならではの巧妙な共通点が見えてきました。

米子市に住む40代の男性は、マッチングアプリで知り合った女性に恋愛感情を抱きました。女性は「Facebook傘下の広告代理店で働いている」と身分を名乗り、「広告費を立て替えれば利益が出る」と持ちかけました。男性は言われるがままに専用アプリをインストールし、8月上旬までに約510万円を振り込みます。アプリ上では利益が出ているように表示されていましたが、いざ出金しようとすると「手数料が必要」などと理由をつけられ、さらに123万円を振り込み、被害総額は合計633万円にのぼりました。

境港市の70代男性は、YouTubeで著名な評論家を名乗る人物の投資広告に惹かれ、LINEグループに参加しました。アシスタントを名乗る人物から「株の売買タイミングを教える」と誘導され、7月から8月にかけて計7回、総額4450万円を指定された口座に振り込みました。このケースでも、アプリ上では大きな利益が出ているように見せかけられており、男性が出金を申し出た際に「ガイドサービス料」を請求されたことで、資金の調達を家族に相談し、詐欺だと気づきました。

北栄町の40代男性は、恐怖心を煽る手口でだまされました。8月26日、国際電話番号からかかってきた電話の相手は「大阪府警の警察官」を名乗り、「あなたの名前が事件に関係している」「口座に犯罪資金が入っている」と告げました。その後、LINEでのやり取りに誘導され、警察手帳の写真を見せられたことで完全に信用してしまいした。最終的にビデオ通話で口座残高などの情報を伝えさせられ、「資金を調査する」という名目で指定口座に135万円を振り込み、騙し取られました。

これらの事件に共通するのは、犯人がLINEやマッチングアプリといった身近なコミュニケーションツールを悪用し、被害者を社会から孤立させていく点です。最初は親密なやり取りで信頼関係を築き、その後、投資や金銭の要求といった本題に移ります。偽の利益画面を見せたり、偽の身分証を提示したりすることで被害者を信じ込ませ、冷静な判断力を奪っていきます。

鳥取県警は「ネットで知り合っただけの相手から、仕事や投資の話を持ちかけられたら、まず詐欺を疑ってください」と強く警鐘を鳴らしています。特に「警察官がLINEへの登録を促したり、捜査協力と称してお金の振込を要求したりすることは絶対にありません」と注意を呼びかけています。