第52回全日本実業団ハーフマラソンが11日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。女子では5000mでパリ五輪代表を狙う樺沢和佳奈(24、三井住友海上)が参戦する。レース前日の取材に「1時間10分を切って優勝したい」とコメント。スピード型の樺沢が、レース終盤まで先頭集団で粘ることができるのか、そしてどの地点でスパートするかに注目が集まる。
参加選手中、断トツ一番のスピードがどう発揮されるか
樺沢はトラックでは、5000mで15分18秒76と23年シーズン日本3位のタイムを持つ。10000mの31分45秒19もシーズン日本5位。クイーンズ駅伝1区(7.0km)でも区間3位と好走した。10kmの距離までは実績がある。だがハーフマラソンは大学1年時の18年2月(1時間14分40秒)以来、6年ぶりの出場になる。
「ほぼ初めてです(笑)。経験が乏しいので、この種目で先頭を引っ張るのは厳しいですね。先頭集団に行けるところまで付いて行きます」。
樺沢が「1時間10分切り」を目標としたのは、集団のペースが読めないこともある。昨年の優勝タイムは1時間10分16秒で、日本人1位は1時間10分48秒だった。三井住友海上の鈴木尚人監督は、「条件次第では1時間8分台も」と話し、樺沢本人も「ペースが速ければ、ワンチャンあるかもしれません」と、自身への期待を持っている。
ハーフマラソンの日本記録は新谷仁美(35、積水化学)が20年のヒューストンでマークした1時間06分38秒だが、女子単独レースでの日本記録は、2年前の今大会で五島莉乃(26、資生堂)が出した1時間08分03秒である。1時間8分台は、かなり価値が高い記録なのだ。
樺沢に関して言えば、記録よりも勝負が焦点になるだろう。ハーフマラソンの21.0975kmの距離で、トラックで培ったスピードを発揮できるのか。発揮するとしたら、ロングスパートの場面なのか、競技場に入ってからのトラック勝負の場面なのか。レース中の200〜400mの短い距離の中で、5秒、10秒と一気に差を広げる展開もあるかもしれないので、テレビ画面から目を離さないようにしたい。
5000m後半の課題解消でパリ五輪標準記録突破へ
樺沢のハーフマラソンへの出場目的は、5000mのために「スタミナ、筋持久力を付ける」ことだ。5000mの自己記録(15分18秒76)で走ったのは昨年12月の日体大長距離競技会だが、世界陸上ブダペスト8位の田中希実(24、New Balance)と、10000m世界陸上7位の廣中璃梨佳(23、JP日本郵政グループ)の2人に、樺沢は約11秒差をつけられた。
「3000m手前で2人に離されました。3000m通過は9分5秒から7秒くらい。パリ五輪標準記録(14分52秒00)を切るためには、3000mを9分切りくらいで通過して、4000mまでを3分00秒で粘って、最後の1000mを2分50秒か51秒で上がる。3000~4000mを粘る部分に、ハーフマラソンが生きると思います」。
樺沢は昨年の夏合宿で「30km走を4~5本」は走り、持久力の強化を図ってきた。その流れで9月の全日本実業団陸上に出場し、5000mは7位(日本人1位)で15分33秒69、1500mは4位(日本人2位)で4分11秒53の自己新という成績を残した。「スタミナ練習を行っていても、スピードはすぐに戻るんです」と、スピードが鈍る心配はない。
プラス要素が大きいのは、トラック・シーズンに入ってからの練習の質を上げられる可能性が出てくることだ。「トラック・シーズン中も10000mのペース走や、16km、20kmの距離走というメニューも行います。そういった練習のタイムを、もう少し上げていけるよね、という判断ができるようになる」。
練習のタイムを上げることは、結果に結びつくことももちろんあるが、故障につながる可能性もある。その判断が的確にできれば、故障を避けてレベルを上げた練習が継続できる。
18歳(大学1年)のときに出場したハーフマラソンは、10km通過が32分台と学生記録(1時間09分29秒)を狙えるペースだったが、レース中に左脛の痛みが出て後半大失速した(レース後に疲労骨折が判明)。6年ぶりのハーフマラソンは、そのときより遅いペースになるかもしれないが、パリ五輪につながる重要な意味を持つ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















