放送中のドラマ『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』。地方オーケストラを舞台にした作品なのだが、このオーケストラが舞台で演奏する前、整然と並んでいる奏者用の椅子や譜面台は誰が設置しているのか…みなさんはご存じだろうか?

実は、余りが出ることなく、奏者の人数や役割に合わせて、ステージ上に正確に設置し、円滑なステージ進行をしているのは「ステージマネージャー」、通称「ステマネ」といわれる人々なのだ。

東京音楽大学の演奏会や式典でステージマネージャーを務める本野正氏が語った、知られざる「ステージマネージャー」の仕事の流儀、そしてやりがいとは。

「いろいろな仕事を5~10年経験し、ようやく独り立ち」

――ステージマネージャーとは、どんな仕事なのでしょうか?
舞台上の楽器、椅子や譜面台のセッティング、公演の進行管理、演奏者の誘導・出入りの指示など、公演を円滑に進めるための様々な役割を担っているのがステージマネージャーです。私は1年で80前後の公演に携わっています。

――演奏当日以外では、どんなことをされているのでしょうか?
公演を円滑に進める事前準備として、練習と本番のスケジュールの策定や舞台配置図の作成、ホールとの打ち合わせを主に行います。場合によっては、楽器の手配や運搬も請け負うこともあります。

――公演を進行するうえで、いつもどんなことを心がけていますか?
とにかく奏者に気持ちよく演奏してもらえるような舞台づくりを心がけていますね。公演には多くの人が関わっているため、それぞれの動きを緻密に把握する必要があります。なので、段取りについては確認に確認を重ねるようにしています。

――ステージマネージャーになるにはどうすればよいのでしょうか?
誰しも最初からステマネができるわけではありませんから、舞台制作に関係するいろいろな仕事を5~10年経験して、ようやくステマネとして独り立ちできるものだと思っています。私も以前、プロオケ(プロのオーケストラ)の事務局で制作の仕事に携わっていました。

入口として、学生時代にプロオケの公演手伝いのアルバイトをして、そこから興味を持ったという人が多いのではないでしょうか。もともと私は教員志望だったのですが、夏休みにアルバイトでプロオケ公演の手伝いをしたことがきっかけで興味を持ち、この仕事に就きました。

――この仕事の喜びはどんなところにありますか?
毎回、演奏を終えた皆さんのうれしそうな表情を見るのがいちばんの喜びです。それまでの苦労など吹き飛んでしまいます。また、卒業生たちと、外の現場で再会できた時も、何とも言えない喜びを感じます。

ドラマ『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』より

身体の動く限りは、“ステマネ”で

――いろいろとご苦労や素敵な思い出もたくさんあると思いますが、特に印象深いできごとを教えてください
特に印象深いのが2020年12月の東京音楽大学シンフォニーオーケストラの定期演奏会です。コロナ禍で4月に最初の緊急事態宣言が発令された時期でしたから、準備も本当に大変で。私自身、“これで立ちゆかなくなるような仕事なら、いっそのことやめてしまおう”と思って臨みました。そんな中、立派な演奏会を開催できたことは本当に感動しましたし、この仕事を誇りに思えた瞬間です。

――この先の“野望”をお聞かせください。
野望というようなものは特にありませんが(笑)、これまでお世話になった音楽業界や東京音楽大学へのご恩返しのつもりで、身体の動く限りは、この“ステージマネージャー”という仕事を続けていきたいと思います。

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オーケストラが公演をするには、こうしたいわゆる“裏方”がいなければ、成立は難しい。ステージマネージャーの仕事は結果、奏者たちが奏でる音にまで影響を及ぼすといっても過言ではないする。音楽会に行って演奏前にセッティングする姿を客席から見ることがあったら、こうした役割を担っている方々がいることを思い返してほしい。彼らがいなければ演奏は成り立たないことを。

<本野 正(もとの ただし)>
東京音楽大学器楽科(ユーフォニアム専攻)卒業。東京交響楽団および神奈川フィルハーモニー管弦楽団にて、企画制作の仕事に従事。​“多くのイベントを手掛けたい”と株式会社ムーンライターズに企画制作室長として入社。講演会、コンテスト、パーティー、ミュージカル、語り芝居などを経験する。退社後の1995年8月、プランニングオフィスネイチャを設立。クラシックに限らずいろいろな企画を持って活動。2019年より、母校である東京音楽大学のステージマネージャーとして力を注いでいる。