中国の海洋進出や台湾有事を想定して、防衛力強化が加速しています。政府は南西諸島に次々とミサイルを配備しています。そしてこれまで、専守防衛を逸脱するとされてきた、事実上の空母保有にも踏み切りました。大きく変化する安全保障、現場からの報告です。

“事実上の空母”保有の背景は

海面すれすれでホバリングするヘリ。小銃を携帯した隊員が次々に飛び込んでいく。“日本版海兵隊”と言われる水陸機動団の離島奪還訓練だ。

“離島”とは明らかに中国が領有権を主張する尖閣諸島を指す。中国の海洋進出に対抗する防衛力強化が、予想をはるかに上回るスピードで進んでいる。そして、政府は専守防衛の下で、これまで封印してきた“事実上の空母”の保有に踏み切った。

戦前から海軍の街として発展してきた広島県呉市。至る所に“海軍”が染みついた街だ。

120年前に建築された呉鎮守府は海上自衛隊呉地方総監部としてそのまま使われている。建物内部には真珠湾攻撃を指揮した司令官達の名前も並ぶ。

早朝、行動が極秘の事から“海の忍者”と呼ばれる潜水艦が帰港してくる。

呉基地は神奈川県の横須賀基地と共に潜水艦部隊の拠点でもある。戦艦「大和」が建造された造船所で、ある艦船の改修が進んでいた。

海上自衛隊最大の護衛艦「かが」。防衛省は同型の「いずも」と共に2隻を“事実上の空母”として配備する。

これは造船所を出て試験航行中の「かが」を捉えた映像だ。大きさは巨大戦艦「大和」に匹敵する。F35B垂直離着陸戦闘機を搭載する為に甲板はジェットエンジンの高熱に耐えられるように張り替えられた。

船首部分は戦闘機が発艦の際に発生する気流を可能な限り弱める為に、台形から四角形に改修された。

ブリッジには巨大な艦船を監視する30台のモニターが並ぶ。空母の心臓部、航空管制室。ここから戦闘機の離着艦をコントロールする。

どこから見ても“空母”なのだが、政府は一貫して否定し続けている。

元航空支援集団司令官 永岩俊道氏
「空母ですよ。世界中の軍事に関連するリストには空母と載っている」

しかし空母に離着艦できるパイロットの養成にはかなりの時間が必要だと語る。

元航空支援集団司令官 永岩俊道氏
「パイロットの訓練も4、5年かかる。明日明後日すぐに、作戦可にはならない」

伊藤俊幸元防衛省情報分析官も、本格的な空母として運用するにはパイロットの養成が大きな課題だと指摘する。

元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「パイロットの育成が急務。海上での離発着は怖くてしょうがない」

中国の海洋進出の抑止には、空母が不可欠だと分析する。

元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「日本の真南に中国の空母が常時1隻いるという状況が起こる。ということは、そこから戦闘機が発進してくる。昔の東京大空襲のように南から飛んでくる」

空母は、専守防衛を逸脱するもので憲法違反だと国会で議論になった事もあった。

社会党 久保亘 議員(参議院予算委員会 1988年)
「日本の自衛隊に空母を導入することは絶対にないと言い切れますか?」

防衛庁 瓦力 長官
「我が国の専守防衛を踏まえまして、攻撃型空母は持ちえない。防衛のための空母は持ちうる」

社会党 久保亘 議員
「それじゃあ、攻撃型空母と防御型空母の区別を説明してください」

この時の議論は平行線のまま、うやむやに終わった。

しかし、集団的自衛権を閣議決定した安倍政権は、議論を尽くさないまま“攻撃型空母ではない”との答弁で押し切ってしまった。