「じいちゃん、あの日、うちに来なかったら助かっていたのかな…」

石川県珠洲市で100年以上続く、温泉施設「宝湯」。1日10人ほどの常連が通う、地元で長く親しまれてきた場所だ。

能登半島地震で銭湯がある本館が全壊し、宿泊施設のある別館は津波で床下浸水したものの、倒壊は免れた。

地震発生時、銭湯には5人の利用客がいた。そのうちの1人が石山富造さん(82)。風呂が大好きで、ここに通うことも日課だったという。

大津波警報を受け、4代目店主の橋元宗太郎さん(40)の父親が避難を呼びかけたが、石山さんからの返答はなかった。地震から5日後の6日、脱衣所の近くで石山さんの遺体は見つかった。

(「宝湯」4代目店主橋元さん)「じいちゃん、あの日、うちに来なかったら助かっていたのかな…なんて思うこともある」

橋元さんは、地震後1週間は全壊した施設を見て、温泉利用の再開はあきらめていたという。しかし、ふと温泉の流れる「ポタッ」という音が聞こえ、勇気をだしてがれきの下を見てみると、源泉が湧き出ているのを見つけた。

発見したときは、自然と元気も湧いてきた。ホームセンターで購入したホースとポンプを使って、別館にある家族風呂にお湯をためることにした。

橋元さんが、一番風呂に入ってほしい人は決まっていた。

(「宝湯」4代目店主橋元さん)「まずは、おじいちゃんの家族のお孫さんとひ孫さんに入ってもらいたい。おじいちゃんと一緒に入る気持ちで、あったまってほしい、じいちゃん寒かっただろうし」