海外勢は日本経済正常化を素直に評価

海外投資家主導による日本株の株価修正の動きは、昨年(2023)の春から夏にかけてもありました。日経平均株価が2万8000円から3万3000円前後にまで急騰した局面です。著名投資家のウォーレン・バフェット氏が日本株を推奨したことから「バフェット効果」などとも呼ばれました。

日本企業の「稼ぐ力」やガバナンスが大きく改善したこと、中国経済の低迷で世界の投資マネーが日本に振り替えられていることなど、日本株買いの理由は様々あげられています。

しかし当時、海外投資家が最も注目したのは、30年ぶりに日本の賃金が上がったことでした。物価が上がり賃金まで上がり始めたことを確認し、要はデフレが終わって名目成長が始まったことを確信したのです。日本経済正常化の予想です。企業の売上げも利益も名目ですし、もちろん株価も名目で動くのですから、理にかなっています。

すでに猛烈なインフレや金利急騰を経験した海外投資家から見れば、日銀がマイナス金利を解除して金利のある世界に戻ることなど当たり前で、日銀の緩和政策修正を決してネガティブには捉えません。金融緩和が修正されて為替が円高に傾けば、その分、買った日本株のドル建て価格は上がるのですから、むしろウエルカムなのです。

「株は下がるもの」という過去30年のトラウマ

これに対して、国内の個人投資家が日本株の上昇を素直に受け止められないのは、バブル期につけた最高値を30年以上更新できず、「株価はまたそのうち下がる」という過去の経験則が染みついていることが大きいように思います。

考えてみれば、中央銀行である日銀が、未だに「物価上昇は持続的安定的でない」という姿勢を崩さず、マイナス金利の解除にさえ踏み切れていないのです。そんな状況では、国内勢が海外投資家ほどは楽観的になれなくても当然かもしれません。

自国の株高に懐疑的で、個人マネーが海外に流出し、その結果、自国通貨安がさらに促進されるという構図は、なんだかデフォルトリスクのある新興国みたいで、やや危険な兆候のようにも思えてきます。

経済正常化を素直に期待して、ホームグランドである東京市場に個人マネーが流入し、その結果として、個々人が株価上昇の恩恵を受ける。そうした健全なサイクルに変わっていけるのかが、株価の動向と並ぶ大きな注目点です。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)