侍ジャパンが3大会ぶりに世界一を奪還し、日本中が歓喜したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の激闘から9か月。

2006年と2009年のWBCでチームリーダーとして日本代表をけん引し、大会連覇に導いたイチロー(50)が、今回独占インタビューに答え、テレビで初めて23年WBCについて口を開いた。

大谷翔平(29)、山本由伸(25)、村上宗隆(23)などの新しい世代が日本中を熱狂の渦に巻き込んだ中、侍ジャパンで唯一のWBC優勝経験者、ダルビッシュ有(37)がチームをまとめ、世界一奪還に大きく貢献。侍ジャパン公認サポートキャプテンを務めた中居正広氏(51)が、立役者のダルビッシュに大会当時の思いを聞き、イチローの言葉とともに大会を振り返ってもらった。

イチローと重なるダルビッシュの姿

中居:
今回のWBCで2回目の出場、2009年は22歳、今回が36歳。チームとしての立ち位置も違ったように見えました。

ダルビッシュ:
そうですね。22歳のときはもう本当に、自分の年の近い選手だけで自分たちで楽しく野球をやってるっていう感じで先輩方に引っ張っていただいて、いつの間にか優勝していたっていう感じだったんですけども、やっぱり今回はもっと周りに「きょう、体調どう?」とか「きのう、寝れた?」とかそういう会話はすごく大事にしてました。若い選手もやっぱり自分のことが、分からない選手がたくさんいましたので、だから自分から話しかけることによって、自分に対して変なイメージとかも、なるべく早く解けるようにっていうふうには思ってました。

中居:
2009年、あの時に影響を受けた選手というのは、いましたでしょうか?

ダルビッシュ:
たくさんの先輩方、皆さんそうだったんですけれども、例えばイチローさんであったりとか、松坂さんであったりとか、影響を受けたというか、とにかく見てました、ずっと。

中居:
勝手ながら、当時のイチロー選手と何となく重ね合わせて見てたような気がしてるんですけども。

ダルビッシュ:
いや、イチローさんはどっちかというと背中で、もう姿勢で引っ張っていくっていうタイプの方だったんすけど、自分はそういうことをイチローさんみたいにできないので、自分はもう別のやり方で、もっとコミュニケーションを取って、チームを引っ張っていくじゃないすけど、そういう役割に関しては似ているかもしれないですけど、やり方としては全く違うっていう形でした。

「ダルがいなかったらソレはなかった」

23年WBCでのダルビッシュの年齢は36歳、09年WBCでのイチローの年齢は35歳。当時の自分とほぼ同年齢になったダルビッシュを見て、イチローが思ったことは。

イチロー:
今回で言えば、2009年のWBCの僕の年齢と、今回のダルの年齢が近い、一つ違いぐらい。(今年会った時に)ダルが言ってたのは、当時僕が言ってたことはあんまり理解できなかったんだけど、今すごく沁みるようになりましたっていうようなことを、今年シアトルで会ったときに、言ってましたね。それはすごくうれしかった。具体的に分からないんだけど、僕がどういう気持ちでチームを引っ張っていったとかね。そういうニュアンスにも取れました。

09年2月、日本代表の宮崎キャンプでイチローは初日からエンジン全開で練習に臨んだ。大会にかける“本気”を見せ、周囲の選手たちの度肝を抜いた。

イチロー:
もうとにかく初日から僕が走る、投げる、打つ、まず「ここまで仕上げてきてる」っていうのを見せつける。どれぐらい僕がこの大会に思いを寄せているか、早い段階で見せつけるっていうかね。それをすれば、おそらく後輩たちは、ついてきてくれると思っていたし、その予定でいたんだけど、それはできなかったっていうね。

WBC本番でイチローは12打席連続ノーヒットなど、韓国との決勝まで通算38打数8安打、打率2割1分1厘と不振に喘いでいた。

イチロー:
僕の苦しみも、目の当たりにしている。2009年の全体の重たい空気。で、最後(決勝韓国戦の9回裏)ダル自身も同点のヒットを打たれて、悔しい思いをしている。その選手が、(23年のキャンプ)初日から参加して自分が引っ張るんだという気持ちを示してくれて、本人は「なかなかうまくいかなかった。結果を出せませんでした」って言ってたけど、でもその気持ちっていうかね、それが何より僕にとってはうれしかったし、そもそもダルがこの(23年代表)メンバーにいてくれなかったら、「新しい世代が世界一になりました」の話になると思うんですよ。でもダルがいてくれたことで、ギリギリで2009年のチームのDNAまでは言えませんけど、ギリギリなんか繋いでくれたっていうかね、ダルがいなかったらソレはないですよ。

ダルビッシュが受け継いだ侍ジャパンのDNA

ダルビッシュがチームにいてくれて、ギリギリ繋いでくれたと語ったイチロー。この話を聞いたダルビッシュは。

ダルビッシュ:
自分としてはDNAがっていうのはもちろんあると思うんですけど、自分しか(WBC優勝)経験がなかったので、そのメンバーの中では、自分が行くことで「当時こうだったよ」とか、「先輩にこういうこと言われたよ」とかいろんな引き出しはあるので。先輩方にたくさん教えていただいたものを、今の人たちになるべく伝えて、少しでも緊張がほぐれたりとか、勇気になったらいいなっていうふうには思っていたので、結果としてイチローさんの言うDNAを引き継いだという形になったのだったらそれはすごくうれしいです。

中居:
“侍ジャパンの思い”というものを引き継いでくれた。そこには感謝したいと仰ってましたがいかがでしょうか?

ダルビッシュ:
2009年、すごく重たい空気ってイチローさんも言われてましたけど、みんなもうすごかったので鬼気迫るというか、先輩方も本当にそれこそ戦争に行くっていう感じの雰囲気だったので、そこを乗り越えて優勝してるって所が、あのチームのすごさだと思うんですけれども。今の選手たちは精神的には違いますし、やっぱり違うアプローチでいかないといけないのかなっていうふうに自分は感じてました。

中居:
また若い世代の選手が今後のWBC、そこは引き継いでいっていただきたいなっていう思いもあるんでしょうか?

ダルビッシュ:
なんていうんですかね、イチローさんが本当スペシャルなので全てが。自分はそういうことを言う権利があるとは思えないっていうか、とにかく自分は今年の大会からまた良いものを次に繋がっていけば、その2009年であったり2006年であったり過去の所からの先輩方がしてくれたことを引き継いでいけると思うので、そういう形になればうれしいですね。

気になっていたダルビッシュの言葉

23年WBCでのダルビッシュの姿を見て、うれしいと語るイチロー。しかし、2012年メジャーに渡ったダルビッシュのある発言に引っかかっていたという。

イチロー:
2009年のWBCが終わってからは、ダルの発言を見てると、どちらかと言えば僕は残念に思ってた時期があるんです。僕が残念に思ったのはのちに、「WBCなんて、ラテン系の選手、アメリカの選手にとっては、そんな大事なものじゃないって、僕らが思ってるようなものじゃない」っていうニュアンスの言葉があったと記憶しています。

イチロー:
あれだけ苦しんで、あれだけ最後喜んで、なんでそんなこと言うんだろうって驚きました。これは(真意は)確認のしようがないんだけれど、だけど今回、(キャンプ)初日から参加してくれて、あぁ、ダル、ずいぶん変わったかもなって。(WBC後)キャンプ地で会った時にね、そのことを直接伝えたら、すごくうれしそうにしてたから、それは外れていないと思いますね。それなりの覚悟を持って臨んでいたんだと思います、と感じました。

イチローが感じたダルビッシュの変化

当時引っかかったというダルビッシュのWBCに対する言葉。しかし、23年WBCに臨む姿勢を見て、ダルビッシュの変化を感じたと語るイチロー。WBC終了後の3月下旬、2人はキャンプ地のアリゾナで再会しお互いをハグし合ったという。

イチロー:
もう感謝の気持ちです。はい。そう(ハグ)したくなる時って、多分お互いにそうなんですよ。やっぱり苦労して乗り越えて、輝かしい時間があった選手がね、苦しみを体験しているっていうのは、なかなかね、味わい深いというか、そういう思いからですね。

2人の再会の様子を、中居氏がダルビッシュに聞いた。

中居:
思わずハグした時、なんかお互いが歩み寄ってハグみたいになったんですかね?

ダルビッシュ:
イチローさんにどこかでご挨拶したいなっていうふうに思ってたんすけど、キャンプにいらっしゃったので、走っていったら、手を広げていただいたので、自分はいつでもハグしたいので、もうこれはラッキーと思って、ハグしました(笑)。

中居:
その話とは別に、先ほど話で出てましたSNSでのコメントになったと思いますけど、イチロー選手は何か今考えるとあれは残念だったなと仰ってました。

ダルビッシュ:
それはもうイチローさんの意見なので、特に何とも思わないです、正直。っていうのも自分も2009年すごくうれしかったですし、日本の野球が世界で一番になったっていうのがあったんですけど、メジャーに行ってからWBCの話しても知らない選手もいっぱいいたりとか、そこの温度差ってのは確かにあるので。

中居:
WBCって変な話ですけど、歴史と、まだ始まったばかりだと思うんですね

ダルビッシュ:
そうですね、ただ開催時期であったりとか、怪我をした時の補償がどうだとか、そういう所の問題が本当にすごく未だにあるので、MLBであったりとかが改善していかないと、自分たちが望むような大会になっていくのっていうのはすごく時間がかかってしまうのかなっていうふうには僕は考えてます。

中居:
イチローさんが「当時、僕が言ってたことがあまり理解できなかったけど今、すごく沁みるようになった」。あれがすごくイチローさんにとって、先輩にとってうれしかったって。

ダルビッシュ:
それはちょっとWBCのときの話ではなくて、自分が結構、過去数年いろいろなことに苦しんでる時があって、キャリアの最後の方に行くにつれて、結構インタビューとかすごくイチローさんのやつ見るんですね。いろんな話とかされて、イチローさんのそういう発言とかを見ると、あっ、イチローさんも同じような道を通ってたんだなってすごく感じて「自分だけじゃないんだ」って思ったりもできましたし、そういう意味ですごく自分の中で力になったっていう所があったんですね。もちろんイチローさんと自分はレベルは違うと思ってるんすけど、少しでも近いところを通ったっていうのが、今はすごくイチローさんの過去に言われたことを理解できますっていう。

中居:
なるほど、そういうことか。

ダルビッシュ:
はい、そういうことです。

イチローとダルビッシュ。2人が長い時間をかけ、体を張って育んできた侍ジャパンの魂は、次の世代へと受け継がれていく。