時代は大きく変わったのだ、そう強く感じました。日本製鉄がアメリカの名門、USスチールを買収するというのです。かつての日米貿易摩擦を知る世代にとっては、腰を抜かすほどの驚きでした。

日本製鉄がUSスチール買収で合意

国内鉄鋼最大手の日本製鉄は18日、アメリカ鉄鋼大手のUSスチールを買収することで、両社が合意したと発表しました。

日本製鉄がUSスチール株を1株55ドルで全株取得して完全子会社にします。買収額は約2兆円という大型再編です。

この買収によって、日本製鉄の粗鋼生産量は、現在の世界4位から3位に浮上します。

日本製鉄は、建築用からEV向けまで鉄鋼需要の堅調なアメリカ市場の成長力を取り込むと共に、USスチールが持つ最先端の電炉技術や原料となる鉄鉱石の鉱山を手に入れることになります。

脱炭素が迫られる中で、鉄鋼生産では再生エネルギーによる電気を使った電炉に注目が集まっており、日鉄としては、得意の自動車向けの電磁鋼板などで競争力を一段と加速させたい考えです。

名門USスチールの落日

この買収劇に驚いたのは、USスチールという会社がアメリカを代表する名門企業だったからです。

『鉄鋼王』として知られるアンドリュー・カーネギーや、『金融王』であるジョン・モルガンが作った鉄鋼会社などが合併してできたできた企業です。

1960年代まで生産量世界一を誇り、その名の通り、アメリカを体現する企業でした。

その名門企業に追いつき、追い越して、1970年代に世界一の座を奪ったのが、日本製鉄の前身である新日鉄でした。

新日鉄の源流は官営八幡製鉄所、USスチールが誕生した同じ1901年に生まれています。

当然のことながら、鉄鋼分野でも激しい日米摩擦が起きました。

USスチールの政治力は凄まじく、70年代からセーフガード(緊急輸入制限)や反ダンピング税といった国内措置を繰り返し求め、いわば「保護貿易主義の権化」といった振舞いを続けて来ました。

最近ではトランプ政権下で、安全保障を理由にした追加関税が発動されたことは記憶に新しいところです。

こうした保護貿易措置によってUSスチールの国内生産や雇用は守られましたが、一方で経営の効率化は遅れ、高コスト体質に陥り、USスチールは競争力を失っていきました。

今や、世界27位、アメリカ国内でも3位にまで転落するという落日ぶりです。