「経済成長も」には疑問。SDGsが不要な世界実現へ

4年勤めた商社を辞め、NHKに転職。自然をテーマにした番組のディレクターとなり、野生動物の取材を始めた。
黒田未来雄氏:
野生の動物、生物って何か一つ間違ったことをすると死んじゃう可能性はあるんです。何か一つのミスを犯すと本当に平気で命を落とすという世界で生きているんです。だから、生きているだけで一瞬一瞬すごく輝いて見えるんです、僕から見ると。命の美しさとか尊さと強さみたいなものを伝えていきたいなって。それはアンゴラ時代から思っていたんです。
――NHKの仕事がすごく楽しそうで、辞める必要はなかったと思いませんでしたか。
黒田未来雄氏:
やりがいもあるし、とてもいいお仕事でした。
――そのあたりに「Life is Once」がかかってくるのかなという気もします。
黒田未来雄氏:
NHKでディレクターをやっている時代にカナダの先住民の方と出会うことがあって、最初に会ったときに、「Life is Once」、お前がやりたいことをやれってものすごくシンプルにどストレートな直球を僕に投げてきたんです。動物とは取材者と取材対象という関係性だったわけです。そうじゃない、食べると食べられるとか、自分もそこに本当に帰ってくんだという深い実感とか、そういう世界があるんだなと知って、彼の言う「やりたいことをやれ」のやりたいことというのは何なのかなということも見つめ直した感はあります。
――経済成長や今の消費社会とかいったものに対する考え方は変わっていったんじゃないですか。
黒田未来雄氏:
「働きがいも経済成長も」というのを選びましたが、「働きがい」という意味では、僕は自分の生きがいをずっと求めて、まずは商社に入って一つ夢を実現して、次にテレビ局に入り、自分の一番作りたい番組の部署に行って、またそこでも夢をある程度実現してということで、働きがいはどんどん追っかけていって増してきて、今そこさえもやめて猟師になって、狩猟採集生活を目指していこうというステージに来て、生きがいは増しているという状態です。ただ、経済的な面で言うと、商社とテレビ局だったら商社のほうが給料がいいんです。そこでボンと下がって、今は固定収入さえなくなってしまってというふうに、経済的にはどんどん減っていっている。
「経済成長も」ということに関してはちょっと疑問を持っていて、右肩上がりをずっと求めるじゃないですか。デフレになったり、給料が下がって景気が悪くなったりすると悪いことだというふうになりますよね。だけど、自然の中で限りなく成長するものっていないですよね。人間であれば、僕は170センチぐらいで身長が止まるわけじゃないですか。食べて食べても僕が2メートル、3メートルになるわけでもないし。ホモサピエンスは経済の中で暮らしてきたわけではなくて、元々は自然の中で暮らしてきたわけです。全ては地球の資源の中でぐるぐる回っているだけなんだということを、僕らは自然からずっと何十万年も学んできたはずなのに、成長という言葉をマストとして盛り込んでしまうと、どこかで行き詰まることが出てくるんじゃないかなと。
――改めて黒田さんにとってSDGsとは?
黒田未来雄氏:
もし、ずっと人類が謙虚にやってきていたら、SDGsを掲げなくても良かったんじゃないかなと思ってしまいます。1個1個の言っていることはもっともだし、そうすべきだと思うんです。けれども、なぜこれをここまで声高に叫ばなきゃいけない時代になってしまったのかというところがちょっと残念です。できるだけ近い将来に「SDGsなんてことを言っていた時代があったよね」と思い出せる、地球全体がみんな幸せになっている世の中が早く来たらいいなと思いますし、そのために自分でできることを自分なりにやっていきたいなと思います。
(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2023年12月17日放送より)














