■「インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を失えばいいんだ」
金融緩和政策を変更して金利を上げた場合、何が起こるのか見ておこう。
住宅ローン等が引き上げられ利用者の負担が増える。さらに企業の借入金の返済負担も増える…などから経済は確実に悪化する。
ただし、円安が止まり、賃金がアップし、インフレが抑えられるなら、乗り切れそうだ。問題は、日銀、政府の側にある。日銀が持つ500兆円を超える国債。これは金利が上がると国債の価格は目減りする。すると実質債務超過とみなされるリスクがある。さらに金利が上昇すると政府にとっては利払いが増える。金利1%アップで、年3.7兆円増える計算だ。やはり日銀は金利を上げられないのだろうか?経済評論家 藤巻健史氏
「(金利は)間違いなく上げられないんだと思う。だから黒田総裁はいろいろ屁理屈を言っている。というのは去年の3月から今年の3月の1年間で日銀の国債の含み益が5兆円減ったんです。まぁあと4兆くらい残ってるんですが…。これは1年間で0.12%、市中金利が上がったからなんです。あと0.12%上がっちゃったら明らかに評価損になる。(中略~中央銀行が債務超過とみなされるとどうなる?)民間のように資金繰り倒産はしません。でも外国人がどう評価するかですよ。アメリカのサマーズ前財務長官が『インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を失えばいいんだ』って言った。信用を失う最たるものが債務超過なんですよ。債務超過になったら格付け機関の評価が下がるでしょうし、私、外資系の金融機関にいたんでわかりますけど日銀に対する信用枠をなくしちゃうと思います。すると外資はみんな日本から撤退」
これに対し金利を上げる前にやるべきことがあるというのは、かつて日銀で調査統計局長などを歴任した早川氏だ。
早川英男 元日本銀行理事
「私は現状は(金利を)上げないんだと思う。ただこれをいつまでも続けていたら本当に上げられなくなる。問題はそもそも日銀が大規模緩和始める前の段階で、政府と共同声明を出しているが、その時には日銀は2%のインフレ目指すとし、一方で政府は持続可能な財政構造を作る、潜在成長率をあげるという2つの約束をしているんです。本当に2%インフレを目指すんだったら財政を立て直さなきゃだめですよって政府に言ったんです。日銀としては約束が違うっていう気持ち」
■「禁じ手中の禁じ手をやった。要は財政破綻の先送り・・・」
2013年3月に黒田総裁が就任して、翌月には現在も続く『異次元緩和』が始まった。だが思えばこれはアベノミクスの3本柱(金融政策・財政政策・成長戦略)のひとつだった。しかし、あれから5年、財政健全化は程遠く、成長戦略も今はいずこである。結局、日銀の政策だけが残ってしまった。現在日本の借金である国債の50%は日銀が持っている。その日銀は「政府の子会社」だと安倍元首相は言う。早川英男 元日本銀行理事
「元首相って人が中央銀行は政府の子会社だっていうのは不適切だと思いますけど、間違ってはいません。経済学上はそういう位置づけです。いちばん問題なのは、親会社がしっかりしていれば大丈夫なんです。過去に債務超過になった中央銀行もいくつもあります。でも親会社である政府がしっかりしていれば、日銀が債務超過になろうと助けてくれます。ところが親会社がしっかりしてないで、2%インフレ目標だけ達成できて、金利上げますって言っても政府は大赤字だから困ります、これじゃどうにもならないです」
経済評論家 藤巻健史氏
「そもそも異次元の金融緩和自体がデフレ脱却っていう大義名分はありましたけど、僕は2013年4月の時点で財政破綻していたと思うんです。GDPに対する借金の割合がすごくて。異次元緩和っていかにも格好いい言葉なんですが、実は財政ファイナンスなんです。中央銀行が政府にお金を貸しちゃうっていうやっちゃいけないこと、禁じ手中の禁じ手をやったんです。
要は財政破綻の先送り政策をやったんです。先人がこんなことしちゃだめだよってことをあの時点でやったから、今こんなに膿がたまってるんです」
世界がやめたゼロ金利政策。先人たちがだめだといった財政ファイナンス。禁じ手を続けた先には何が待っているのか、藤巻氏は言う
経済評論家 藤巻健史氏
「日銀はやめられないと思う。インパール作戦ですよ。行くところまで行く…。その先にあるのは、ハイパーインフレですよ。金利は上げられない。お金はばらまく。回収はできない。もう中央銀行の体をなしてないですよ」
こういった最悪のシナリオを懸念する藤巻氏は、最後に現在の日銀をつぶして新しい中央銀行を作るしか道はないと言った。何らかのソフトランディングはないものなのか・・・?
経済評論家 加谷珪一氏
「時間稼ぎかもしれませんが政府はもうちょっと財政健全化と成長戦略の方向性をはっきりさせる一方で日銀は(金利0.25を死守するとか言わず)あいまいで柔軟でいいのではないか。
日銀が手詰まりのため、インフレ圧力がたまっているのは間違いないです。皮肉なことなんですが、非常にインフレが進むと政府債務のGDP比率が下がるんですね。通貨の価値が下がるので借金も目減りすると。でもそれを狙うのは綱渡りで…。国民の資産も目減りしてしまうこともありうるわけです。最初にこの歪みが顕在化するのは為替だと思う。想定外に円安が進むというのがまず考えるべきリスクだと思います。それが明日来るのか、来年なのか分かりませんがそのリスクはそれぞれが考えておかなければならないと思います」
(BS-TBS『報道1930』 7月4日放送より)