【編集後記】TUF報道部 伊藤大貴
 今回は福島東野球部を取材しました。福島東は例年、県大会の上位に進出することも多い実力を備えた県立高校です。県内屈指のスラッガー・阿部勇星選手を擁するチームは春の県大会でベスト8に進出。そして迎える夏の初戦で挑む相手は、第4シードの強豪・東日本国際大昌平です。固くなりがちな初戦の大一番に、選手はどう思っているのか。インタビューを終えてカメラが回っていないタイミングで、担当記者が阿部選手に聞いたことがあります。

「初戦の相手はいきなりシード校の強豪。実際に組み合わせを見たときはどう思いましたか」

「正直、嫌ですね」

春の県大会で躍進を遂げた力のあるチーム。「強豪校に勝ちたいので意気に感じた」というような答えを予想していた担当記者にとって、とても意外な答えでした。取材を終えて会社に戻る道中、この言葉の本当の意味をずっと考えていました。

担当記者も福島市で野球をやっていた元高校球児。9年前、4回戦でシード校に負けて私の「夏」は終わりました。そして試合後に言われたことがあります。「甲子園で優勝してもいつか「夏」は終わる。今日負けるかもしれないという不安の中で戦い抜いたことはいい経験だったと思う」。顧問の先生が最後にかけてくれた言葉でした。

高校野球は負けたら終わりの一発勝負という厳しい世界。「勝ちたい」「でも負ける可能性だってある」。選手たちは不安と少しポジティブな感情の狭間で複雑に揺れながら戦い抜くのだと思います。だからこそ、その感情がさらに大きく動くであろう強豪との一戦を前にした先ほどの言葉だと、担当記者は捉えています。目の前の勝負に全力で挑むからこそ、時代が移り変わった今も高校野球は人々の心を魅了し続けるのかもしれません。その姿を見届け、選手の心を取材できる記者でありたいものです。