日銀がいよいよ、マイナス金利解除を市場や世間に織り込ませるための作業を開始したと思いました。

日銀副総裁、「出口」前提の発言

日銀の氷見野良三副総裁は6日、大分市での経済界との懇談会で、「賃金と物価の好循環の状況を良く見極めて、出口のタイミングや進め方を適切に判断する」、「出口を良い結果につなげることは十分可能だ」と述べました。いずれも「解除する」と言い切ったものではありませんが、「好循環」や「出口」が近いことを前提にした発言です。

懇談会でのあいさつで氷見野氏は、現状について「変化は確実に進んでいる」と評価しました。そして、「物価から賃金への波及は統計的にも確認でき」、「賃金から物価への波及も幾分戻ってきている」と述べて、いわゆる物価と賃金の好循環が「少しづつ起きつつある」との認識を示しました。

何より驚いたのは、この中で氷見野氏が、出口を迎えた場合に何が起きるかを、丁寧に説明したことです。「家計は預金金利が上がるので総じて収支が改善」し、「企業も借金を減らしてきているので金利上昇の影響は限定的」、「金融機関の経営はずっと成り立ちやすくなる」などと、取り沙汰される懸念に具体的に答えたものでした。

マイナス金利でなくなったとしても「心配いらない」と、日銀は囁き始めたのです。

そもそも日銀の大幹部が、政策変更決定前に、政策変更後の話を具体的にするなどというのは極めて異例のことで、変更後のショックを最小化するために、事前に「織り込み済み」にする作業に入ったとみるのが自然です。

米景気の鈍化で「出口」早まる可能性も

もともと金融市場では、来年4月をメインシナリオに、マイナス金利解除との観測が広がっていました。氷見野氏のこの発言からは、「出口」がやや早まってきている印象を受けます。

その背景には、国内の物価や賃上げの動きだけでなく、アメリカ経済の先行き見通しの微妙な変化もあるでしょう。すでに広がっていた利上げ打ち止め観測が、ほぼ確定へと変化し、利下げへの転換時期も早まるという見通しが強まってきています。それは、単にインフレが沈静化するだけでなく、景気減速を伴うのではないかという懸念さえ出てきているのです。