「この子を育てることはできない…」
蒼君は、生まれる前から「X連鎖性遺伝性水頭症」という病気を抱えています。脳の回りに溜まった水で脳が圧迫され、知能・身体の発達スピードに遅れが出るとされている病気です。
(母・永野夏帆さん)
「(20週目くらいの時に)脳内の『脳室』が、水でどんどん拡大されて、(エコー画像で見ると)脳内が水で真っ黒になってしまっているのが、少しずつ明らかになってきて、『どうしたら、この子の命が健康だったんだろう』とそんなことを思ってた」

なぜ、わが子が。妊娠中、そんな気持ちにさいなまれた母、夏帆さん。息をするのも苦しく、通院中は終始無言で、蒼君と対面することも恐れていたといいます。
2019年6月、香川県の病院で、帝王切開で蒼君を出産。蒼君は、生後3日で頭の手術を行いました。「何かを口にしたい」という意識が芽生えず、母乳も吸えません。当時は小さな身体に管を通して栄養を補給していました。

(母・永野夏帆さん)
「自分だけ止まっている。社会は普通にまわっているけど、自分だけが止まってて、スーパーに行っても、公園に行っても、赤ちゃんを抱っこするお母さんを見る、手をつないで歩いている家族を見る、それだけで『自分は全然違う世界にいるんだ』って突きつけられたような気持ちがして、家から出たくない時期もすごく多かった。私はこの子を育てることはできないって思っていた」

母の気持ちを変えたのは、蒼くんだった
そんな夏帆さんの気持ちを変化させたのは、蒼君でした。「何があってもこの子と生きていく」とそう、覚悟を決めた瞬間があったといいます。
(母・永野夏帆さん)
「(医師に)『息子の首が据わったね』って言われたときに、『もう私はこの子と生きていくしかないんだな』って。一生できないかもしれないと言われて、あきらめたことを成し遂げたというので、すごくうれしかった。『もう私はこの人を自分のそばから離してってことは絶対考えられない』と思ったのは、息子の『成長』を先生が言ってくれた時だった」
この子は、成長している。当たり前のようで、でも、とても大きな事実。発達のスピードは他の子どもたちと違えど、蒼君の家族は共に毎日を生きます。

(父・永野孝幸さん)
「絵本とか結構好きで、ずっとこの状態で読んだり…」
父の孝幸さんも、蒼君を愛し続けています。
家族の様子を撮影しているときでした。
(蒼君)
「ママ」
「パパ」

医師から言葉をどれほど喋れるかは分からないと言われていた蒼君ですが、つい最近、「パパ」と「ママ」が言えるようになったといいます。
(父・永野孝幸さん)
「子供が生まれたら“お父さん、お母さん”で呼んでもらいたいと思っていて、“ママ、パパ”って呼んでもらうのは恥ずかしいと思っていたけど、『この子がいつになったら喋れるかな』といろいろ考えてたら、『ママでもパパでも呼び名はいいから呼んでもらいたい』と思って、一生懸命『パパ、パパ』と言っていた」
(母・永野夏帆さん)
「パパは泣いてました」

(父・永野孝幸さん)
「初めて聞いた時涙が出た。その日のあとから『パパ、パパ…』ってめっちゃ言えるようになった。話せると思わなかったので感動しかなかった。そんな日が来るとは思わなかった」