議会で答弁する広島県の担当者(2021年)
「現段階では、建物の解体を俎上に載せるのは適当ではない」

ところが、被服支廠は「国の重要文化財の価値がある」という有識者の指摘を受けて県はおととし、3棟全て耐震化する方針に転換。ただ、1棟当たり5億8千万円という耐震化の工事費が、物価高でさらに増えると見込まれたため、湯崎知事は今年6月、国に支援を要望します。

湯崎英彦 広島県知事
「抜本的な拡充をしてもらうか、新しい制度、ないしは特別な対応をお願いしないといけない」

これを受けた国は、補助金を耐震化工事に充てられる国の重要文化財指定に前向きな姿勢を示し、8月6日の原爆の日にはー。

岸田文雄 総理
「当該建物の活用等について方針が定まれば、国の関連事業を通じた支援、こうしたものを速やかに行っていきたい」

重要文化財指定の動きが加速していったのです。4棟のうち1棟を所有する国も耐震化を表明し、4棟全ての保存に大きく近づきました。

原爆投下から78年。94歳の切明さんは、戦争の悲惨さを伝え、広島の歴史を物語る建物として有意義に活用してほしいと話しています。

被爆者 切明千枝子さん
「戦争中の広島、原爆にやられて戦後の広島、それをずっと物は言わないが見てきた建物だと思う。負の遺産ではあるが、あれは崩してしまってはいけない。残しておくべきものだと思う」

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中根夕希 キャスター
私も祖母が被爆者。祖母の姉は、当時この被服支廠で働いていて、軍服を作っていたが、原爆で残念ながら即死したようだ。祖母たちも当時、姉を探しに行ったが建物の中には亡くなった方々の骨がたくさんあって、誰が誰か分からなかったという。祖母はその中で骨を1つだけ箱に入れて持ち帰ったそうだ。被服支廠は人々が亡くなった歴史を伝え続ける必要がある。

今後の活用策について県は、国や広島市と協議しながら▽交流拠点▽平和や歴史の学習拠点▽国内外の観光拠点という3つの実現可能性を検討するという。どのように活用されるのか議論の行方が注目される。