今年で3年目となる高校野球女子選抜とイチローさん(50)との全力対決(21日 高校野球女子選抜0-4イチロー選抜 KOBE CHIBEN、東京ドーム)から一夜明けた22日、イチローさんが対戦した高校野球女子選抜のメンバーへ向け、全霊の講演会を行った。
最初の一言目は笑顔から始まった。
イチロー:
おはようございます。どうですか皆さん体調は?元気?もう一晩寝たらスッキリしちゃうの、高校生は? いいね、僕はボロボロです。マジでボロボロだから。えらいことですよ。
今年で50歳になったイチローさんは、前日の試合で投げては9回116球の完封勝利、打っては5回に3年目にして待望の初ヒットの二塁打を放った。この大会はかねてより“全力”でプレーすることが信条だ。もちろん、この日の講演会でも高校野球女子選抜チームからの質問に“全力”で答えた。
ピンチは実はチャンスなんだとはなれない
Q.試合でピンチの時とかチャンスの時にどういうメンタルで挑んでいますか?
イチロー:
よくピンチはチャンスとかって言うんだけど、そんなメンタルには全然なれないです。そんなに強くなれない、まぁ少なくとも僕はね。ピンチはピンチだったし、チャンスも割と自分が追い込まれた状態、精神的にね。そういうことも多かった。だけど、後にあのピンチは自分にとってチャンスだったんだって思えることはたくさんあった。その瞬間は無理だよ、このピンチは実はチャンスなんだとはなれない。まぁそういう人もいるかもしれない。そうやって自分を思い込ませることは可能かもしれないけど、僕にはそれは出来なくてピンチはピンチとして捉えて、でもそれを超えられたら後の自分が、あの時のピンチとか壁とかいろんな表現があると思うけど、それは自分を前に進めるためのチャンスだったんだっていう風になる日が来てほしいね。つまりそれは、未来の自分がどうであるかによるかな。勝負の世界だから勝ち負けが付くわけだけど瞬間瞬間で。そこで逃げ続けた人はおそらくそれは達成できないよね。なんとかそこでリラックスしようとか平常心を保とうとテクニカルなことでそれが出来たとしても僕は成長したとは言えないと思う。厳しいけど追い込まれた状態の中で自分を必要以上に追い込む必要はないんだけど、ピンチをもっとピンチにする必要はないんだけど、僕は額面通りのピンチで立ち向かう、それを繰り返してきました。
苦手なピッチャー
メジャーで10年連続200安打、日米通算4367安打など数々の記録を打ち立てたイチローさんにはこんな質問も飛び出した。
Q.苦手なピッチャーは?
イチロー:
堂々としているピッチャーはイヤですね。マウンド上で自信なさそうにしてるピッチャーはいつだって僕がヒットを打つ自信があるし、だけどその反対に僕がどれだけ打ってても、マウンド上で堂々とされていると、すごく嫌だ。これはたまに聞かれることですけどね。自信を持って投げ込んできているというのが伝わると、バッターは受け身の立場なんで押される。ピッチャーは分かると思うんだよね、このバッターがいま受け身になってるなって。攻めてきているバッターはピッチャーとしては嫌だな。僕も投げててすごくそれを感じるんだよね。どんな球でも振っていくバッターは、僕はどっちかというとそういうタイプなんだけど、そのバッターが打てるところに来たらしっかりと振ってくるバッターはピッチャーはイヤだと思うし、それがピッチャーにとってボールだったとしても。でも、甘い球を簡単に見逃したり、なかなか追い込まれるまではバットを振ってこないとかね、それも自信の表れの選手と言える選手もいるかもしれないけど、振ってくる選手はイヤだよね。
バッターが待ってる球で勝負してくるピッチャーも嫌だね。それはすごい自信があるからだからね。待ってる球を投げたって打たれない自信がある証だから、それで打ち取られたバッターはダメージが大きいので、完全に負けたっていう感触が残る。それは長い間続くんだよね。特にプロ野球の世界では何度も対戦があるので、その印象を植え付けられるとずっと残ってしまう。それは最もイヤなピッチャーと言えると思います。
50歳になって球速が上がる感触を得た事はすごく大きい
Q.野球を続けられている秘訣を教えていただきたいです
イチローさん:
ぼく好きだね、野球。昨日もそうだったんだけど、練習する時に必ずその日の限界を迎えるように練習してるのね。もうこれ以上やったらさすがに次の日、動けなくなっちゃうなとか、これ以上やるとオーバーワークで怪我しそうだとか、寒くなってくると風邪ひきそうだなとか感じるので、何かこう送られてくるの、センサーでここまで。でもそれを毎日繰り返すんだけど、そうしないと上手くなれないし、強くもなれない。昨日の試合は1年に1回の試合なんだけど、じゃあこの試合のために1ヶ月前に準備して鍛えて、あれが出来るかといったら絶対出来ないんですよ。僕らのチームは数も少ないし、野球経験者、野球ができない人も何人もいます。だから、昨日のメンバーがなんとかプレーをできるギリギリのメンバーなのね。そうすると、チーム内で紅白戦もできないから、1試合もしないでこのゲームに臨む。でも昨日感じたことは、これはそろそろ僕らがやられるかもしれないという感触を得ました。だから練習の仕方を変えなきゃいけないし、それはみんなのおかげです。野球を続けているとこういうことが生まれるんですよ。やめたらもう何もないですから。だんだんその日が迫ってくると緊張して、僕にとってはネガティブな夢も見るし、当日の大事な試合前ってこういう感触、この緊張感あるよなとか、球場着いてからも独特の空気で、遊びの野球だったらこういう気持ちにはならないし、いい結果を出したいって思うからそのために練習して来てるしね。でも、これだけ緊張するということは、自分がそれなりに準備をしてきた証でもあるから、それはすごく嬉しいわけよ。僕は前日になっても当日になっても、以前とは違う気持ちですごくリラックスしてるなという状態は全然嬉しくない。今回も、ものすごく緊張してドキドキして心拍数が上がって、これは真剣勝負だから味わえることでね。だから、いまだにこうやってグラウンドの上でみんなと本気で対戦できることが、まぁ怖さもあるんだけどね、でも、野球をやっててすごく幸せな気持ちになる、そういう瞬間なんです。
実際、僕は50歳になったんだけど、去年までの最速が134キロで135キロの壁みたいなのがあったね、僕の中で。昨日、何球か138というのがあったんだけど、でも19年がチームの発足で、21年が神戸の試合でしたか。その2年後に50歳になって球速が上がるということはあんまり自然なことじゃないでしょう?自然じゃないですよね。でも、そうやって毎日限界を迎える練習をしてるとこうなるんだって昨日思いました。それはもちろん成長段階にある子達はね、日々練習して体力もついてきて、体も大きくなって能力が上がっていく、それは自然なことだと思う。それも続けなければそうはならないわけだけど、でも50歳になってもそれができるという感触を得たことは僕にとってすごく大きいですよ。ぼくは続けることが得意というかストレスじゃなくて、信じたものとか、これはいいものだって思うとずっと続けられる。何かそういう性質があって、食べるものとか好きなものをずっと食べられます、毎日食べられる。飽きないでしょう? 人との付き合いも好きになった人とか、相性が合う人とは長く続くという傾向があるんだけど、やっぱり野球のゲームがある。それは1年後であってもその1年できるんですよ。嫌いなことを無理矢理やらされているんだとしたらね、それはとてもできないし、上手くなろうという気持ちにもならないから、好きであるということはすごく大事なことだな。それはずっと感じています。
講演会後にはサイン会が行われるなど野球界のレジェンドから贈られた2日間は選手たちにとって貴重な時間となり、イチローさんは向上心をなおも高ぶらせていた。
■イチロー(鈴木一朗)シアトル・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター
1973年10月22日生まれ 愛知県出身 外野手 右投/左打
愛工大名電~オリックス~ マリナーズ~ヤンキース~ マーリンズ~ マリナーズ
1991年ドラフト4位でオリックスに入団 2001年にマリナーズへ移籍
2006年、2009年のWBCでは侍ジャパンで世界一
2018年に日米通算4367安打を達成。2019年に現役引退














