植田総裁からにじみ出る「終結前夜」感

植田総裁は記者会見で、マイナス金利解除が見通せる状況には「依然、達していない」として、緩和継続の姿勢を改めて示しました。

その一方、そうした公式見解とは別に、これまでより踏み込んだ「自らの言葉」も、随所に見られました。

物価の基調について「徐々に高まっていくと見られる」と踏み込んだのを始め、持続的な2%という目標の実現についても、「前回に比べ前進している」、「見通し実現の確度が少し高まって来ている」と語りました。

さらに2024年の賃金上昇に関しても、「そこそこの可能性で起こる」との見通しを明らかにしました。

こうしたことから、市場では、早ければ年明けにも、遅くとも4月には、マイナス金利解除という声も聞かれます。

米利上げ終結という「時間との戦い」

しかし、準備を整えることと、実際にマイナス金利解除に踏み切ることは、イコールではありません。

最大の焦点は、昨年以上の賃上げが実現できるかどうかですし、物価の動向や、グローバルな景気動向、さらに、国内政治情勢が解除を許すのかなど、数多くのハードルがあります。

ここに来て、新たなハードルとして浮上してきたのが、アメリカの金融政策の方向性でしょう。

アメリカの中央銀行にあたるFRBは、1日の決定会合で、昨年から続く今回の利上げ局面で、初めて2会合連続で金利の据え置きを決めました。

パウエル議長は記者会見の席で、依然、追加利上げがあり得るという姿勢を変えませんでしたが、その一方で、このところのアメリカの長期金利の急上昇によって、金融が一段と引き締まったとの認識も明らかにしました。

金融市場では「もう利上げは終わった」との見方が急速に広がっています。

アメリカの利上げ局面が終わったとなると、次は、いつ利下げが始まるのかに関心が集まります。

その時期を見通すことは困難ですが、アメリカが緩和(利下げ)に向かう時に、日本が引き締め(利上げ)に動くことは、これまでの常識から言えば、考えにくいことです。

日本の異次元緩和とアメリカの利上げ局面が、いずれも「終結前夜」に向かう中で、日銀の植田総裁にとっては、アメリカの金融政策が転換する前にハードルを越えられるかという、「時間との戦い」の局面に入って来ました。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)