「“倫理的な軍事占領”などあり得ない」

元イスラエル兵士が立ち上げたNGOが今月14日、ひとつの声明を出した。

「イスラエルとガザの両方ですべての罪のない民間人を傷つけることに反対する声を大きくはっきりと上げることがこの恐ろしい時代における私たちの義務であることに変わりはない」

強硬姿勢を貫くイスラエルの中にもガザ地区の民間人を傷つけるべきではないと思っている人はいる。かつてパレスチナ自治区に派兵された元兵士を追ったドキュメンタリー映画『愛国の告白~沈黙を破る・Part2~』の中で、深夜パレスチナ人の家に家宅捜索に入るシーンがある。銃を持ち、親に寝ている子どもを起こさせ写真を撮る。これはどちらが支配しているかを分からせるためにやっている行為なのだという。一人のイスラエル人元兵士が言う…。

元兵士
「“これは非道徳な行為だ”と自分自身に言えなかったが、ただ“人がやるべき行為ではない”と感じていた。それが私たちを社会人として兵士として人間として変えてしまう…」

元兵士 NGO代表
「パレスチナ人に残忍になるように訓練されたわけではない。“倫理的な軍事占領”などあり得ない。2019年という時代に軍が民間人を支配しているということ、それこそが残虐なのだ。だから問題は兵士個人にあるのではなく指揮官や軍の高官でもなく、占領の維持を決断した政府に責任があり、その政府を選んだイスラエル国民にある」

番組ではこの映画で告白していた元兵士たちが、どんな思いで今回の事態を見ているのか取材を試みたが、返事を返してくれた人はいなかった。この映画を撮った土井敏邦監督は「占領そのものが問題ということをイスラエルの中で叫ぶのだから非国民になる」と取材の難しさを話す。兵士から実際に話を聞いた土井監督はなぜ彼らが占領に反対する声を上げたのかについてこう聞いたという。

ジャーナリスト・映画監督 土井敏邦氏
「なぜエリートである彼らが立ち止まったのか。占領は単にパレスチナ人を苦しめることではない。イスラエル社会をダメにすると言うんです。若者が良心を失っていく。パレスチナの占領は我々をダメにしてしまう。18歳くらいの兵士が平気で自分のお父さん・おじいさん・おばあさんくらいの歳の人を自由にあっち行けこっち行けとか、時に殺す権利さえある。そういうことをしていては若い人が良心を失ってしまう、狂ってしまう。それはイスラエル社会を破壊してしまう…だから反対するんだと言うんです」

実際、イスラエル政府の方針に疑問を持っているイスラエル人はどのくらいいるのだろうか?

かつて在イスラエル日本大使館専門調査員を務め、イスラエルの政治と安全保障を研究する辻田俊哉氏に聞いた。

大阪大学 辻田俊哉 准教授
「具体的数字を出すのは難しいですが、少数と言えば少数ですよ。今までにそういった声を出す人が増えていたのは確かですが、10月7日以降は声を上げにくくなった。国全体が怒りに満ちた状態になってまして…。なかなか冷静なコメントは出ない…。現時点においては攻撃反撃やむを得ないという…」

首相が早々に“戦争状態”と発言したイスラエルでは、もはや言論の自由は夢物語なのか。

番組が次に話を聞こうとしたのは、パレスチナ人の自爆テロによって娘を亡くした母親だった。