2年前のクーデターによって実権を握ったミャンマー軍は、抵抗する市民らを武力で抑え込もうとしてきた。それでも、民主主義を取り戻そうとする人たちのうねりがおさまることはない。混乱が長引く状況にミャンマー軍は国内の反発や国際社会からの圧力をかわそうと躍起になっている。今回、それを象徴する出来事があった。
軍主導の巨大プロジェクト 思惑は
最大都市・ヤンゴンから北に車で約5時間かけて向かったのは首都・ネピドー。
7月21日、ミャンマーの軍事政権が、普段はめったに取材を許さない外国メディアを“ある目的”で招待した。
街の中は首都とは思えないほどひっそりとしていた。通りを歩く人の姿もほとんど見当たらず、道路の先にひろがる青い空が、自然と目に焼き付く。軍政側が手配したメディア用のバスに乗り換え、目的地に到着すると、真っ白な景色が現れた。
ここは一体…。

豪華な庭園や仏教式の建物が並ぶ敷地の中央に真っ白な石材が一面に敷き詰められている。
青い空を背に鎮座していたのは、巨大な大仏だった。
軍トップ、ミン・アウン・フライン総司令官肝いりの事業で、大仏の高さは19メートル。軍によれば、大理石製の大仏としては世界最大だという。
その大きさに圧倒されていると、ミャンマーの伝統的な衣装「タイポン」に「ロンジー」と呼ばれるくるぶし丈のスカートをまとった軍事政権の幹部がやってきた。
軍のゾー・ミン・トゥン報道官は、集まった記者たちにプロジェクトの詳細と大仏の魅力を約1時間半にわたって話し続けた。

「国の繁栄を祈り、世界の平和と安定に貢献するのが目的だ」 報道官が語る言葉と私たちが見ているミャンマー国内の現実はあまりにも違う。
経済が混乱しているさなかに日本円で約50億円もの資金を費やしたという。
ミャンマーは敬虔な仏教国で国民の約9割が仏教徒といわれる。大仏の建立には、軍政に反発する国民を懐柔する思惑も透けてみえる。
自分たちの力を誇示しようとする軍に、ある市民は「権力に狂っている」と怒りをにじませた。