シスメックスは西原、田﨑が復調。尾崎が自己新を連発

シスメックス前監督の森川賢一氏が昨年末に急逝した。遠征中に脳梗塞で倒れ、帰らぬ人となってしまった。

森川氏を慕って前所属先から移籍してきた選手も多く、影響が出たのはやむを得ない。体に生じる痛みもメンタル面と関連している。そう考えた高尾博教新監督は「脚に痛みがある選手は1~2月は走るのを中止し、メンタル的なフォローに時間を費やした」という。

シーズン後半には主要選手たちも復調してきた。西原加純(34)は大学時代から森川前監督の指導を受けてきた選手。1月の初マラソン、3月の2回目と、ともに2時間40分台に終わったが、その後は精神面も安定し、9月の全日本実業団陸上では15分49秒24をマークした。「今はそれ以上に上がってきています」と高尾監督。3区か5区への出場が有力だ。

前回大会の西原選手

1区候補は田﨑優理(22)で、やはり森川前監督を慕って移籍してきた選手。昨年のプリンセス駅伝19位は1区の出遅れで流れに乗れなかったからだが、その1区に予定されていたのが田﨑だった。直前のケガでチームに迷惑をかけたことと、その後の森川前監督の急逝で「ショックが大きかった」(高尾監督)という。

その田﨑も7月に5000m15分45秒61と復調。「前半から飛ばしていけるタイプ」(高尾監督)の駅伝で、本来のレベル(15分24秒61)に近づく走りが期待できる。

2人以外にも、山田高から入社2年目の尾崎光(19)が15分台(15分57秒43の自己新)をマークした。「自己新を今季5回出しています。ロードやアップダウンに強く、長い距離に適性がある選手。主要区間候補です」と高尾監督。
「シーズンインが2カ月くらい後れ前半は良くありませんでしたが、7月のホクレンDistance Challengeくらいから足並みが揃ってきて、夏合宿は全体で揃ってできました。チーム状態は良くなっています」。

予選通過は確実だが、「8位以上」(高尾監督)でクイーンズ駅伝復帰を実現し、森川前監督を安心させたい。

十八親和銀行はチームとして7年ぶり、吉井監督就任後初のクイーンズ駅伝出場を狙う

十八親和銀行は前回、16位の肥後銀行と10秒差の17位だった。吉井賢監督は「悔しい中にも成長の手応えも感じられた」と振り返る。「ぼんやりしていたクイーンズ駅伝出場という目標が、昨年の走りで自分たちでもやれるんじゃないか、と明確になりました」。

想定に近い走りはできたという。1区の北原萌依(22)が区間11位、2区の明石伊央(29)が8位に進出した(区間8位)。3区の古本紗綾(21)が区間26位で16位に後退したが、「3区で20番くらいまで落ちるかもしれない」と考えていた吉井監督の想定を上回った。

4区の安部実伽子(24)の区間15位は、インターナショナル区間で外国人選手が12人出ていることを考えれば健闘だろう。5区の三宅翔子(22)は区間14位、アンカー6区の光恒悠里(25)は区間10位。4区で2つ、5区で1つ順位を落としたが、光恒が2つ順位を上げ、16位チームを10秒差まで追い上げた。

前回大会の光恒選手

「当初は光恒が3区の予定でしたが不安もあって、直前の5000mでチームトップ、自己新を出していた古本を3区に起用しました。誰が3区を走っても“抜かれ役”になったと思います。4区と5区で順位を落としましたが、予定通りの走りをしてくれました」。

20年まではチーム内で、18年アジア大会マラソン銀メダルの野上恵子(37)が突出した存在だった。野上1人に頼る意識は持たないようにしていても、駅伝では「(1区か3区を区間上位で走った)野上1人が作った貯金を切り崩していた」と吉井監督。

しかし昨年のチームは少し変わってきていた。「高卒2年目の古本が不安からすごく緊張していましたが、4区以降の3人が『私たちで何とかするから』と声をかけていました。そういったところにもチームの成長が感じられました」。

16年を最後にクイーンズ駅伝出場から遠ざかっていた十八親和銀行。昨年の10秒差は、最もクイーンズ駅伝出場に近づいたタイム差だった。

今季は地元長崎の諫早高から藤丸結(18)が加入。十八親和銀行としては高校時代の実績がある選手で、駅伝メンバー間に競争意識が芽生えた。北原は5000mの自己記録に約2秒、安部も約3秒と迫り、明石は前所属チーム時代に出した15分42秒16には及ばないが、16分18秒14と自己サード記録をマークした。

光恒は3月に、初マラソンの名古屋ウィメンズを2時間31分26秒で走り新人賞を受賞。5000mでも16分07秒52と自己新をマークした。8月の北海道マラソンは酷暑のため2時間50分台の記録になったが、光恒が5位、三宅が7位とダブル入賞。2人がマラソンに挑戦する意欲を持てたのは、チームとしても前向きな姿勢になれているからだろう。
「プリンセス駅伝も良いメンバーを組むことができたと思います。2区までを10番くらいにつけて、3~4区で多少抜かれるかもしれませんが、5~6区で盛り返して10~12位でフィニッシュしたい」。

17年に就任した吉井監督が、一番の自信を持つことができている。監督就任後初の、チームとしては7年ぶりのクイーンズ駅伝出場を狙う。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)