今、睡眠の質の改善を謳った様々な分野の商品が注目されるなど、いわゆる睡眠市場が拡大している。こうした中、睡眠の質を見える化し、健診サービスなど新たな市場を開拓しようとしているスタートアップ企業を取材した。

従業員の睡眠の質や量が企業業績に影響、睡眠をデータ化

睡眠のデータを集める高精度な腕時計型のデバイス「アクセルポラリス」の最大の特徴は、睡眠中、一時的に起きる状態の「覚醒」を高精度で捉える点だ。睡眠で大切なのが、寝床にいた時間に対して、実際に眠れた時間の割合である睡眠効率で、これを把握するのに覚醒を正確に検知することが重要だ。

覚醒を含めた精度の高い睡眠を測るには、これまでは頭や体に電極を装着し、病院で一晩脳波や眼球運動などを計測する検査が必要だったが、このデバイスを7日間、腕につけて眠り、Webで問診を受けるだけで、同等の精度の結果を得ることができる。高精度なウェアラブルデバイスを開発したのが東京大学発のベンチャー企業アクセルスターズだ。開発のきっかけとなったのが、デバイスに搭載されているアクセルというアルゴリズムだ。

東京大学大学院 医学系研究科 大出晃士講師:
(アクセルとは)基本的には、腕の動きです。腕の動きの加速度を取得するセンサーを使ってデータを取得します。少し覚醒になったというときも正確にその時点で覚醒しているということを、アクセルアルゴリズムは判定することが得意ですので、途中で一時的に起きたということを精度よく捉えるということが可能になった。

厚労省によると、睡眠に何らかの課題がある日本人は5人に1人と言われ、コロナ禍の健康意識の高まりなどを受け、睡眠の量や質の向上を目指す商品などが相次いで生まれている。こうした中、9月4日、大学や健康経営に関わるNPO法人、三井住友信託銀行などが参加し、睡眠の産業化を目指す日本睡眠協会が設立された。従業員の睡眠の質や量が企業業績にも影響するという研究報告などが注目される中、睡眠の課題解決を通じた新たな市場開拓が始まっている。

――アクセルスターズCEOの宮原禎氏はリクルート出身で、いくつかの会社の経営に携った後、睡眠事業にたどり着いた。なぜ睡眠なのか。

アクセルスターズ代表取締役CEO 宮原禎氏:
前職は主に生活習慣病予防のパーソナルヘルスレコードというサービスの開発をしていました。その中で、先進国、特に日本や欧米諸国など、心の病気や脳の病気が非常に問題になっていますから、デジタルバイオマーカーとしての睡眠に着目して、事業を作ってみたいと思って始めています。

世界の平均睡眠時間をまとめた。OECDの中で日本は7時間22分と最も短く、次に短い韓国の7時間51分と比べても約30分睡眠時間が短い。

――世界で一番短いのはなぜか。

アクセルスターズ 宮原禎CEO:
日本の特徴としては全世代で睡眠が短いというのがあります。もう一つは、諸外国に比べて比較的通勤・通学時間が長くて、そもそも睡眠に充てる時間が短いのではないかというのもよく言われています。

睡眠不足による年間の損失額は約15兆円ということだ。

――端末を持ってきていただいた。何を計測するのか。

アクセルスターズ 宮原禎CEO:
主に加速度で、体の動きを捉えて睡眠なのか覚醒なのかを判別するということです。

――腕の動きで睡眠の質が把握できるのか。

アクセルスターズ 宮原禎CEO:
起きているときの体の動きと、寝ているときの寝返りの動きというのは特徴的に違います。そういうものを加速度によって見分ける中で、この人は寝ているときに動いているのか起きていて動いているのかを見分けるということに特異なアルゴリズムです。

――腕の動きを分析して、睡眠の状態と紐付けているというのがこのアルゴリズムの最大の特徴なのか。

アクセルスターズ 宮原禎CEO:
東大もアクセルスターズもデータ取得ラボを持っています。脳波は基本的にはゴールデンスタンダードと言われているデータで、医学的に評価の高いデータです。同じ人に同じ時間で我々のデバイスをつけていただいて、まずデータを蓄積するということを大量にやっているというのが私達の会社の特徴です。

――睡眠を測るようなウェアラブルデバイスはいくつか市販されているものもあるが、それとは比較にならないぐらい精度が高いと見ていいのか。

アクセルスターズ  宮原禎CEO:
例えばいろいろな病気の特徴として、寝ているときの覚醒を捉えるというのが非常に重要なのですが、そこに長けているということです。