五輪プレシーズンの不調から勝負の冬期練習に

リオ五輪メンバーの飯塚、桐生と同じ大会で頑張ったのも久しぶりのことだが、自身の状態と比較すると喜べないようだ。

「2人は今の僕とはレベルが違う、と思いました。早く肩を並べて走れるように自分も仕上げていかないと。まだ自信が持てないので頑張らないと」

だが、プラスに考えていい“過去の実績”もある。リオ五輪前年の15年はシーズンベストが10秒36(-1.1)だったが、16年は10秒03(+0.5)と大きく上げてみせた。東京五輪前年の20年は10秒42(-0.3)だったが、21年は9秒95の日本記録を樹立した。プレ五輪シーズンは故障の影響でタイムが落ちても、五輪イヤーには立て直してきた。山縣自身が「過去は過去なんで」と言うように、今の状況を上向かせることに役立つわけではない。だが、巡り合わせなど運の良さで五輪シーズンに記録が上がったわけではない。自身の現状を正確に把握し、状態を上向かせるための対策を練り、死に物狂いの努力をした結果である。

冬期練習期間での課題解決の手応えを質問されると、「簡単ではないだろうな、と思います」と山縣は答えた。これは悲観的な言葉ではない。山縣の自身を分析する姿勢が、より強くなっていることを示している。

「トレーニングのやり方からもう1回、チームで相談して考え直さないといけない部分もある。来年の春先から(パリ五輪標準記録の10秒00など)タイムを狙っていけるような仕上がりを、この冬は目指さないといけない」

楽観的な見方を微塵も見せなかったことが、山縣の来季と、パリ五輪への期待度を高めた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)