インフレ退治のため金融引き締めの長期化を示したパウエル議長とは対照的に、日銀の植田和男総裁は大規模緩和の継続を決めた。

米は引き締め長期化。慎重さ目立つ日銀植田総裁

アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、2会合ぶりに利上げを見送り、年5.5%を上限とする政策金利を維持した。予定される年内あと1回の利上げについては、19人のメンバーのうち12人が必要と表明した。大きな変更点は来年以降の見通しだ。2024年中の利下げ幅を1%としていた前回の予想を0.5%にとどめ、高い金利を長く続ける状態に変更した。

強い経済のおかげでソフトランディングへの自信を深めるパウエル議長とは対照的に、慎重さが目立ったのが植田日銀総裁だ。9月22日、日銀は短期金利をマイナスに長期金利を0%程度に抑える大規模な金融緩和を維持すると決定した。

9日の新聞のインタビューで注目されたマイナス金利解除など、今後の政策修正の時期については「現時点では経済物価を巡る不確実性は極めて高く、政策修正の時期や具体的な対応について到底決め打ちはできない。(金融政策は)新しいデータや、その他の情報を丁寧に分析して決めていくものです。こうした政策上の基本的な考え方については、従来から変化はございません」とややトーンダウンした。

その上で、「マイナス金利解除に向けたカギは継続的、持続的な賃金の上昇が一番大きなウエートと考えていいか」との問いに、「物価上昇の継続性を判断するための最重要な要素の一つである」と答えた。

22日の外為市場は、日本と欧米の金融政策の違いから、会見中に円安が進んだ。発表直前に147円台後半だった円は、一時148円台半ばまで値下がりした。植田総裁は為替の動きについて、「我々の物価見通しにも影響を及ぼすものであるという観点からは、常に注視している。経済物価への影響について、もちろん政府とも緊密な連絡をとりながら注視してまいりたい」と話した。

インフレ率が下がるとの日銀の予想に反し物価の高止まりが続く状況については、「輸入物価が国内の物価に転嫁される動きが、ある企業については大体終了したのだけれども、また違う企業群が、ここまで転嫁していなかったのを転嫁する動きがやや続いているかなと。毎回同じことを申し上げているようで恐縮ですが、そろそろピークに近いのかなとは思っています」と述べた。

――今回は政策転換に向けて踏み込むのではないかと身構えたが、肩透かしだった。

東短リサーチ代表取締役 チーフエコノミスト 加藤出氏:
新聞のインタビューで出たイメージを押し戻しましたね。

植田総裁は、9日の読売新聞のインタビューでは「マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すれば解除する」、「年末までに十分な情報やデータが揃う可能性はゼロではない」と語っていた。

――今回は少なくともそこまでは言うのかと思いきや、後退して「決め打ちはまだできない」、「考え方は従来と変わっていない」、「距離感は変わっていない」など、また戻った感じだ。

東短リサーチ代表取締役 加藤出氏:
8月26日のアメリカでの植田総裁のスピーチは、今回の会見のトーンだったわけです。ところが9月9日に新聞記事が出たせいで、マーケットは「おっ!」という感じになったわけですが、日銀サイドとして見ると、見出しの付け方とかがちょっと強すぎたのであって、自分たちの言い方は変わっていないというつもりのようです。

――しかし、ちょっとぶれている。

東短リサーチ代表取締役 加藤出氏:
そこはちょっとまだ植田さん、マーケットとのコミュニケーションがうまく、しっくり行くまでもうちょっと時間がかかるのかなという感じもします。

――植田総裁は計算して言ったのか、あるいはちょっと口を滑らせたということなのか。

東短リサーチ代表取締役 加藤出氏:
これだけ円安が進んで、物価の見通しも夏に上方修正もやらざるを得ず、おそらく10月もまた上方修正すると思います。そういう中で徐々に物価の上振れリスクというのも、少しずつ気にし始めているのでしょうから、大きな流れとしてだんだんマイナス金利解除を意識せざるを得なくなっているのだと思います。