2023年4月26日、松山地裁。窃盗の罪に問われ、被告として証言台に立ったのは62歳の男性だ。起訴状などによると、男性は住所不定の無職。上下は薄い灰色のスウェット姿。頭髪には白いものが目立つ。
盗んだのは140円のパン

空腹に耐えかね盗みを働いた男性が、司法の裁きを受けていた。
「パンを盗もうとしてコンビニに入店したのか?」
2か月に一度受給する6万円の年金が唯一の収入源で、これまでにも数回、万引きに手を染めた過去がある。
「当時、所持金は数十円しかなかったが、なぜ入店したのか?」
少し猫背気味で正面を見据えながら、男性は検察官からの質問に答えた。
「お腹が空いていて、パンの陳列棚を通り掛かったとき、手に取ってしまった」
裁判で認定された事実などを踏まえ、事件を振り返る。
2023年3月7日の午前9時ごろ、愛媛県松山市内のコンビニエンスストア。パンの陳列棚の周辺を歩き回る男性を不審に思った店員が声を掛け、手さげ袋の中を確認したことで、窃盗が発覚した。盗んだのは販売価格140円のカレーパン1個だった。
冒頭陳述などによると、男性は2022年末まで、香川の実家で義母とふたりで暮らしていたが、嫌気がさして家出したという。そして、2023年2月、年金が底を尽く。翌3月、空腹を満たす目的でコンビニに侵入、パン1個を盗み、現行犯逮捕された。