沖縄県糸満市のカフェで開かれた絵画展。鮮やかな色使い、そして力強いタッチで描かれた、県内の風景や自然の絵画が飾られています。特に訪れた人たちの視線を釘付けにするのは、死後の世界に向かう「三途の川」を描いた作品です。これらの絵を一目みようと、連日多くの客が店舗を訪れていました。

土~夢おうちカフェ 喜瀬文子オーナー
「客の反応もすごいということで予告なしで店に入ってきて感動して、作者は知らないが2点買っていったりとか、すごく励みになったというお客さんもいた」

なぜこの絵画が見る人の励みとなり、感動を生んでいるのか、その理由は絵の作者にあります。

絵の作者 儀間真一郎さん
「僕は綺麗に書こうではなくて、今思っていることを書こうって感覚なので」

これらの絵画を描いた儀間真一郎さん。儀間さんが風景や人、モノを描く時、被写体を見なければ、下書きをすることもありません。その代わりに集中した様子で数秒間、目を閉じ、思い立ったように絵を書き始めます.

儀間真一郎さん
「昔の人の話を聞いて、昔の沖縄はこうだったと聞いたらむちゃくちゃ頭の中で想像するんです、それを絵に書くのも楽しいですね。目が見えなくなってから見たくなったというか、沖縄の景色とか

14年前の39歳の時に糖尿病が原因となり左目を失明した儀間さん。手術により右目だけはかすかに光を感じることができる程度で、形を認識したり色の識別はできません。そのため被写体の色の全ては昔の記憶や想像により決めるといいます。また絵の具の色は、チューブに書かれた文字をどうにか読み込む、色を混ぜる場合は周りに助言を求めます。

視覚障がいがある儀間真一郎さん
「これこげ茶になっていますか(こげ茶よりは明るい茶色ですね)こうやって僕は色を確かめるんですよみなさんに聞いて。実際にどう見えているか分からないけど、僕から見たら黒なんですよ、水を足すと白くなってきて」



青や緑など深い色は黒色に、オレンジや黄色など明るい色は白色に見えるといい、儀間さんはモノクロの世界でわずかに感じられる濃淡を頼りに絵に色づけていきます。

見えないものを書く、絵の概念にとらわれない自由な表現に描き方で3年前から絵を書き始めたという儀間さん。なぜ視覚障がい者にとってハードルの高い、筆を取る事を選んだのでしょうか。

儀間真一郎さん
「ベートーベンなんて弱聴ですよでもあの“第九”とか作ったわけでしょ、だったら聴覚障がい者でも音楽は作れるわけですよ、僕もチャレンジする。見えないものを見たい、書いてみようって感じ。絵が上手いかといったら上手くはない、僕は僕のパフォーマンスをするだけ」

失明をきっけかに生活の全てが変わったという儀間さん。突き付けられた現実に耐え切れず、自ら命を絶とうとしたこともあるといいます。しかし同じように障がいをもつ人たちと交流を重ねるにつれて自身の障がいを受け入れ、障がい者1人1人が社会進出して活躍するための会社を立ち上げました。今ではアニメーション制作や清掃業に農業など多分野で障がい者の雇用を生み出し、可能性を引き出しています。

聴覚障害がある比嘉萌珠さん
「私は絵を書くのが好きでしたが、パソコンを使ってアニメの制作はやり方が難しくて大変だけど、頑張って少しずつ慣れてきた。」

発達障害ADHDがある山根日暖さん
「100%を目指すと自分が潰れてしまうなら1点でも取ればいいんだと言ってくれている。それを目指していつも頑張っている」

職員が持つ障害はそれぞれですが「乗り越えられない障がいはない」と、日々職員に言葉をかけてきた儀間さん。自身もアニメーションの編集を行ったり、障がい者のeスポーツの団体を立ち上げるなど次々と新しい挑戦をするなど、行動で示してきました

儀間真一郎さん
「最初から障がいがあるからと諦めている子は多いような感じがする。僕がみんなに言っているのはダイヤモンドの原石なんだと、ダイヤモンドは削って削って作られる。僕らが削るということは厳しいチャレンジや挑戦をするということ。色んな人たちに指導され、でも削られたら光るんだよと、そういう風に教えている。」

こうした中、儀間さんの個展は評判を呼び、新たに南城市で絵画展を開催し、足を運んだ人たちは視覚障がい者による作品ということに驚き、思わず足を止めて見入る人や、儀間さんに感想を直接伝える人の姿が見られました。

絵を見に来た人
「圧倒されるというか迫力のある絵でした。」
「色合いも綺麗で(作者が)視覚障害の方って書いてあって、全然そういう感じがしない絵だった」

見るすべての人が驚きをみせる絵画展。しかし儀間さんはまだスタート地点に立ったばかりだと話します。

儀間真一郎さん
「真の生きがいを探そうと思っている今も、成功はまだしていない。成功ってないと思う、でも探して探して人生最後まで探し求めたい。病気はダメではない、病気というのは何かをチャレンジして、自分を再認識できるもの、そして新しいものに挑戦できるステップアップだと思っている」

障がいという個性と向き合いながら、可能性を探求し続ける儀間さん。不自由の視界を超え、自由な世界をこれからも描きます。