そして8月。立山は夏山シーズン真っ盛りでした。多くの人が訪れるなかに佐伯さんの姿も。

佐伯克美さん:「こんなに小さくてきれい。これがミヤマ。深い山に咲くリンドウ。そして、これが立山っていう名前がついている大事な大事なかわいい子ちゃんです。これがタテヤマリンドウ」

雪が無くなりスキーができない夏の立山では、室堂周辺などでガイドの仕事をうけおっています。大好きな立山の魅力を多くの人に伝えたいという思いからです。

この日の夜。玄関から出てきたのは夫の郁夫さん。電動カートに乗って、どこへ向かうのでしょうか。佐伯さんも外に出てきました。しばらくすると、空気が揺れるほど響き渡る「ドン」という大きな音。

佐伯克美さん:「始まった、始まった」

二人のお目当ては打ち上げ花火。毎年、地元の港で開かれる花火大会を自宅の前から眺めるのが恒例行事です。

記者:「気分はどうですか?ビール飲みながら?」
夫・郁夫さん:「快適です。爽やかなもんです」
佐伯克美さん:「涼しいけ?」(富山弁で「涼しいの?」という意味)


ことしも一緒に花火を見ることができました。

記録的な暑さが続く夏のある日。佐伯さんは、大きなホールの演台に立つ準備をしていました。これまでいくつも講演の依頼を受けてきた佐伯さん、この日も大勢の聴衆を前に、自分の哲学を語ります。控室には佐伯さんの“教え子”だったという壮年の男性も…。地元・魚津市の教育長でした。

佐伯さん:「あらー教育長さん。ようこそ、ありがとうございます」
教育長:「家内もきょう聞きに来ておりますので…」
佐伯さん:「私の教え子なんです」
教育長:「先生きょうは50年ぶりに授業楽しみにしております」


講演の前には、サプライズセレモニーも。

日本冬季マスターズスポーツ協会の高井健志代表理事:
「佐伯さんがマスターズのワールドカップのオーストリア大会で、見事2つの金メダルを受賞されました。その功績が認められて、ギネスの認定を受けることになりました。おめでとうございます!」

佐伯さん、2022年は87歳で全日本マスターズに出場したことがギネス世界記録に認定されていましたが、今回は88歳で世界大会に出場し、世界最高齢記録を更新しました。この日の講演で佐伯さんが伝えたこととは…

佐伯克美さん:「私がいつも考えていること、何か言うたら…きょうと同じ明日でありたい。これは私がいつも考えていることです。88歳にもなりますと1日1年衰えて当たり前です。だから何もしないなんて、そんなことはもったいない。ちょっと上を向いて。ちょっと努力して。それでやっと昨日と同じきょうです。いまできることを楽しむ。これが私の一番生き方の基本になっております。きょうここに来てくださった方みんな私の応援団です。ありがとうございました」

取材の最後には、こう答えてくれました。

佐伯克美さん:「メダルもらった日も幸せで人生最高と思ったけど、きょうも私は最高。これだけのいろんな人たちがいてくださる。ありがたい。そんなに大きい目標は持ちません。明日も元気ならいいなと。次のシーズンも滑れたらいいなって。大きいことは望みません。ちっちゃいことをちょっとずつ…」

ほんの少し先を見る、佐伯さんの人生は続きます。