5月。北アルプスの立山ケーブルカーに乗って佐伯さんが向かっていたのは…標高2300メートルの立山天狗平。この時期、クロスカントリースキーはオフシーズンに入っていますが、まだ雪が残っている雲上の立山で、時間を惜しむように雪解けギリギリまで練習に励みます。
なぜそこまでがんばることができるのか、佐伯さんは雪原の大パノラマをバックにスキー板を履いて滑れることが、この上ない幸せだと言います。

佐伯克美さん:
「山の中で滑っていれば楽しい…言うことない。滑れる幸せ。もっと言ったら、この歳で滑れる幸せ」


人生の折り返し地点を過ぎた60歳から、本格的にクロスカントリースキーを始めた佐伯さん。それまでにも、様々なことに挑戦してきました。64歳のとき、“国内最難関”ともいわれる真冬の剱岳に登頂。凍結した間宮海峡(樺太とユーラシア大陸との間)をクロスカントリースキーで横断したのが70歳。そして、80歳で富士山にも登りました。

佐伯克美さん:「ちっちゃい目標よ…ちょっとできること。例えばいまはもう剱岳行こうって思わない。でも、クロカンスキーでここへ来て剱岳眺めていいなーって。いまもここで鍛えておけば、続きのおまけでことしの冬もまた滑れるかもしれない。また全日本マスターズにでてみようとか…ちょっとできそうな、ちょっと先の目標。たくさん先じゃないが…ちょっとだけ先…」

練習を終え、室堂へ向かった佐伯さん。そこで見つけたのが…ライチョウの夫婦です。

佐伯克美さん:「この時期のオスは美しいのよ。ほれぼれとするわ。メスがそばにいるオスはトサカがキンキンとたっている。やっぱりね、オスが美しいのはメスがいるとき。かっこいいオスや…」

富山県魚津市の自宅を訪ねました。結婚生活62年を迎えた佐伯夫婦。夫の郁夫さんも88歳になりました。

夫・郁夫さん:「じわじわと弱りながら生きているけどね」
佐伯克美さん:「弱ってもらったら困る」


山岳ガイドを務めていた郁夫さんとは地元の山岳会で出会い、そのままゴールイン。結婚後も国内外問わず様々な山を一緒に登り、山のガイド本の執筆活動も二人で続けてきました。

佐伯克美さん:「いまクロカンスキーやっているけど、その背景に人生の一番大事な部分は山登りで(夫と)共にやってきたというのがあるから、生きている限り感謝だわよ。この人がさつぶれたらさ、私が困るじゃん。好きなことできない。だからこの人には元気でおってほしい。この歳でケンカすることはない。ケンカしたって無駄だもん」

88歳でも車は自分で運転します。

記者:「いつもニコニコされていますけど気持ちが落ちることはない?」
佐伯克美さん:「そういうことは目をつむる。考えない。(気持ちが)落ちたり、暗くなったら…免疫力も落ちるし、悪いことが寄ってくる。前を向いていれば大抵のことは逃げていく」

“ちょっと上を向いて、日々を楽しむ”。佐伯さんのモットーです。