佐賀県鳥栖市で今年3月、両親を殺害したとされる元九大生の長男(19)の裁判員裁判が7日、佐賀地裁で開かれました。検察側は、長男に対し懲役28年を求刑し、弁護側は「保護処分が相当」と主張しました。判決は9月15日に言い渡される予定です。
◆検察側「反社会性と倫理性は著しい」

起訴状によりますと、元九大生の長男は今年3月、鳥栖市の実家で両親をナイフで刺して殺害したとされています。9月1日に始まった裁判で、長男は父親の殺害を認める一方、母親への殺意は否認しました。7日のの論告求刑で、検察側は、傷の数や深さなどから母親への殺意が認められるとした上で「2人の命が奪われた結果は極めて深刻。反社会性と反倫理性は著しく保護処分を社会的に認めることはできない」などとして、懲役28年を求刑しました。
◆弁護側「保護処分相当。刑事処分の場合は懲役5年が相当」
一方、長男の弁護側は、「保護処分相当」として、少年法55条に基づき事件を家庭裁判所に移送することを求めました。保護処分が認められない場合でも、「懲役5年が相当」としました。
◆弁護側が「保護処分相当」とする理由
その理由について弁護側は、法廷で次のように主張しています。 父親の虐待がなければそもそもこの事件は発生しなかった。 母親も虐待を止められなかった事情もあるにせよ、親として父親の虐待を止めることができなかったのは事実。 母親の致命傷となった傷について、故意にナイフを刺したとは言いきれない。 長男は、父親の虐待によって人格の形成がされずこの様な事件を引き起こしている。罰を与えるのではなく人格的人間関係のもとで人格形成と更生を図るべき。 また、弁護側は、長男の妹を含む遺族が「減刑嘆願書」を提出したことを明らかにしました。
◆これまでの裁判で明かされた父親からの虐待
弁護側の冒頭陳述や被告人質問などでは、長男が幼少期から成績を巡って父親から暴言や暴力を受けていたことが明かされました。長男は、父親の意に沿うように中学受験、大学受験をする一方、成績が悪いと長時間正座で説教され、人格否定されたとし「どうようもない状態で、心が壊れそうになりました」と述べました。
◆高校生の頃に「殺害」を考えるように
中学生のころから復讐心を抱き、高校生の頃には「殺害」を考えるようになったといい、殺害した理由について「父から受けた仕打ちに対する報復」と説明しました。父親をナイフで刺した後には父親から「なんで?」と言われ、「あれだけつらい思いをさせておいて覚えがないのかと怒りを感じました」と述べました。
◆「父への仕返しを支えに生きてきた」と証言
殺害を思いとどまることはなかったか問われると、「自分がいつか仕返しをするということをずっと支えにして生きてきて。それを放棄すれば、これまで生きてきた意味がなくなるので、放棄することはできませんでした」と淡々と述べました。一方で、「実行したところで満足感、達成感を得られるわけでもなかった」「どうしようもなかったが、後悔する気持ちも強い」と、事件後の心境も明かしました。
◆母親への殺意は否認「死ぬとは思わなかった」
母親については「恨みはない」とし、父親を刺した後に止められたため、「早く(母親を)どかさないと父に逃げられてしまうと思い母を刺した」「死ぬとは思わなかった」などと述べ、殺意については否認しました。
◆「兄もつらい思いをしてきたと思う。今も兄を心配している」
裁判では、事件が起きるまで両親と一緒に暮らしていた長男の妹の供述調書が読み上げられました。妹は自宅に帰宅した際に両親の遺体を見つけた経緯を説明。兄が成績のことで帰ってきていることを聞いていたため、殺したのは兄だと思いました」と述べました。一方で、「いつも勉強を教えてくれて優しい兄でした。兄を恨んだりしていません。兄もつらい思いをしてきたと思います。今も兄を心配しています」と思いやりました。処罰感情については、「法にのっとり適切に処罰してほしい」と述べ、裁判に臨む兄にこう願いました。「父と母の最後の声が聞きたい。兄には自分のしたことを正直に話してほしい」
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