メディアの沈黙
報告書ではジャニーズ事務所内での性加害についての根本は、ジャニー喜多川氏の病的な性癖、姉メリー氏の徹底的な隠ぺいによって長期化したと断じた。さらにその長期化の背景にメディアの沈黙があったとしている。なぜ我々は報じられなかったのか。
朝日新聞 大久保真紀
「芸能ゴシップと言う気持ちがありました。反省しなければならないが時代背景として児童虐待防止法ができたのが2000年なんです。あの時期に新聞が書けたかと言うと難しかった。人権侵害と言う意識が足りなかったのは反省しかないが…性加害問題は、誰もが見たくない効きたくない、真正面に捉えたくないという気持ちになることも関係している」
ある意味の権力者であった人物による性加害。番組は、かつてカトリック教会の司祭たちが長年にわたって少年を性虐待していた事実を暴いた記者を描いたアカデミー賞映画「スポットライト~世紀のスクープ」のモデルの人物を取材した。

ボストン・グローブ紙元記者 マット・キャロル氏
「若く弱い立場にある人間が尊敬する権力者からの加害行為に対し『ノー』というのは恐ろしいことです。そういう意味で(ジャニーズの問題は)残念ながらとても似ています」
日本ではジャニー喜多川氏の性加害の週刊誌記事はゴシップ記事扱いされ大きく取り上げられてこなかった。これについても、キャロル氏は、これまでも司祭が少年たちに性加害をしているという噂があったが、それを皆が見ないようにしそういう状況に慣れてしまっていたということも似ていると指摘。自分たちも記事にすることは簡単なことではなかったという。
尊敬されて来た司祭による30年にわたる性加害を暴くこと。映画では「誰がこの記事に責任を持つんだと」記事を書くことを止めようとする幹部に、記者はこう言った。「記事を書かなかった責任は?」と。
ボストン・グローブ紙元記者 マット・キャロル氏
「報じれば教会に悪影響が及ぶことは分かっていました。しかしそれは私たちには関係ないことで我々は報じるだけです。よからぬことが起きていて我々は人々に身に起きたことを報じる。我々が懸念したのは被害者のことであってカトリック教会ではない」
この報道をきっかけに被害が次々と明るみに出て、この年までの被害だけで損害賠償額は1100億円におよんだ。破産する教会も多かったという。記事がどんな大きな影響を及ぼすのかを気にするのでなく被害者がいるのだという現実を見失ってはいけないというキャロル氏の言葉を我々は肝に銘じなければならない。