◆日本人や日本企業も無関係ではない
3月には反スパイ法に違反した疑いで、製薬大手「アステラス製薬」の現地法人に勤める日本人男性社員が拘束されたままだ。一体何が「スパイ行為」に該当したのかはっきりしないだけに、情報公開を求める声が多い。
中国との友好団体を運営する日本人男性が、やはりスパイ容疑で6年間、服役した。日本人だけではない。中国共産党系の主要な新聞の幹部が3月、複数の日本人外交官に情報を提供した――として中国当局にスパイ罪で起訴された。昨年2月に北京市内で在中国日本大使館職員と会った直後に拘束されていた。
日中関係が緊張する中、中国当局は体制内の事情を知り得る人物と日本側との接触に対し、厳しく臨む姿勢を鮮明にしている。また、米国の同盟国である日本に対する中国の警戒が背景にある。
◆諜報(スパイ)活動でしのぎを削る米中
冒頭に紹介した、「日本留学中にアメリカCIAのスパイとなった」とされるハオという人物の逮捕は、アメリカで日米韓首脳会談が単独では初めて開かれた直後だ。この3か国首脳会談は、共同声明の中で、「南シナ海において、中国によって不法な海洋権益に関する主張が行われている」と中国を名指しした。インド・太平洋地域で、中国が続ける一方的な現状変更の試みには強く反対すると改めて表明したものだ。
中国の場合、国家機密に関することなら、秘匿するのが普通だ。今回中国側がわざわざ公表したのは、アメリカへの牽制だ。国民に向けて、アメリカに毅然とした態度をとる習近平政権の姿勢を示すとともに、「アメリカをはじめ西側の国々から“魔の手”が伸びるかもしれない」という警鐘を、高級公務員に向けて発する狙いも当然あるだろう。見えないところで、米中両国は諜報活動でも、しのぎを削っている。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。














