「私の生活基盤は完全に破壊された」
関弁護士は「一匹狼で、職人のようにコツコツと息の長い行動を続けるタイプの人」とAさんを評する。
Aさんは裁判と並行して、2回目の難民認定を申請していた。
18年9月、1次審査はまた不認定に。「通知書別紙」に書かれた理由には「(Aさんの)活動は本国で拘束されている人権派に激励のはがきや、政府に釈放を求める手紙を送った程度で、本国にいる家族は政府官憲から身柄拘束などされていない。迫害を受ける恐れは認められない」とあった。
Aさんは、難民審査参与員による2次審査を求めた。
コロナ禍で予定が1年も延期された口頭での意見陳述(参与員による対面審査)で、冒頭、Aさんは陳述書を日本語で読み上げた。関弁護士によると、気負った感じもなく、いつもどおり淡々としていたという。
「生活に必要な費用を除き、お金は、ほとんど民主化活動に費やした。さらに三度、東京入管に収容され、私の生活基盤は完全に破壊された」「本国周辺の情勢は激変し、国内は一層厳しい監視社会になり、民主化運動はますます不可能になっている。当局は疑う余地もなく私の状況を把握していて、強制送還されれば絶え間ない迫害を受け続けるだろう」
続いてAさんが入管職員に直接、疑問をただした。あまり知られていないが、2次審査は、行政庁の1次処分に対する不服の申し立てに当たるので、入管職員に対して直接、質問する場を設けることができる。
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Aさん「自分の活動は、本国政府がすでに把握しているということでいいか」
入管職員「通知書別紙に記載のとおり」
Aさん「自分の行ったことが事実であると(入管が)認めたということでいいか」
入管職員「日本で請求人(Aさん)が行ったとする政治活動等の信ぴょう性は、積極的に争わないということ」
Aさん「その事実は、本国政府が把握しているということか」
入管職員「通知書別紙に記載のとおり」
Aさん「イエスかノーで回答していただきたい」
入管職員「これ以上答えられないが、ご意見として伺う。先ほど答えたとおり」
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関弁護士が語る。「約50年ぶりに抜本的に改正された行政不服審査法のポイントは、1次審査の行政庁と2次審査を分離させることや、1次審査をした行政庁への質問権を設けることにあった。しかし難民審査では1次も2次も法相名で判断が下されるうえ、入管法に“読み替え”が規定され、口頭での意見陳述や入管職員に対する質問の場を設けなくてもよいとする例外が大幅に拡大した。たとえAさんのように質問できても、一次処分にまったく関与していない職員が出席して『通知書のとおり』を繰り返す。法務省・入管庁は制度を完全に骨抜きにしている」
誠意のない答えに終始した入管庁職員の退席後、Aさんは参与員に訴えた。
「誰でも心の中では社会人として社会に貢献したいと思っている。私は1人の国民として本国の政治制度について発言する権利がある。民主化運動を続ける必要は十分にある」