国際的な団体が2023年3月、世界一の「持続可能な観光地」に選んだのが、人口約4万人の愛媛県大洲市だ。観光を通じて町を保存し、再生する町として生き続けられるようにするという取り組みを取材した。
古民家再生で日帰りから滞在型観光地へ。新たな雇用も創出

オランダにある持続可能な観光地の国際的な認証団体「グリーン・デスティネーションズ」が2023年の文化・伝統保存部門で大洲市を1位に選出した。

大洲市は街の中心を肱川が流れ、鎌倉時代に築城された大洲城をいただく城下町だ。人口約4万人。伊予の小京都と呼ばれる大洲市だが、6年前から少子高齢化を背景に、空き家の取り壊しが進み、美しい町並みを失いかけていた。この危機を乗り越えるため、行政と民間企業がタッグを組み、大洲のまちづくりが本格的にスタートした。
大洲を世界一に導いた立役者が、スペイン出身のディエゴ・コサ・フェルナンデス氏だ。ヨーロッパや東京の大学院で水と都市を研究していたフェルナンデス氏は2019年、大洲に移住し、現在、まちづくりを進める団体のスタッフとして、まちの魅力を世界に向けて発信している。

キタ・マネジメント ディエゴ・コサ・フェルナンデス氏:
ここは江戸時代の町の形がそのまま残っている。
おはなはん通りと呼ばれる通りには、江戸時代の町並みが残されており、暮らしぶりを垣間見ることができる。通りから少し歩いたところには、明治時代の建物があり、そのすぐ隣にある横丁には昭和30年代の雰囲気が残っている。
フェルナンデス氏:
大洲はコンパクトなエリアだが、まだ残っているもの、歴史のどこの層も体験できる。

残っているのは、歴史的な町並みだけではない。寛永元年創業の菓子屋「村田文福老舗」の看板商品「月窓餅」は400年変わらない味を守っている。

村田文福老舗 15代目 村田真嗣氏:
大洲にはこのお菓子が昔から続いていた。お菓子も実際美味しいと思っていますし、これをずっと変えずに後世に続けていけたら、もうそれだけが使命。

持続可能なまちとして評価された背景に、歴史的資源を見るだけで終わらせるのではなく、活用している点がある。その柱となるのが、古民家の再生だ。

古民家再生の中で生まれたのが、宿泊施設「NIPPONIA HOTEL大洲城下町」だ。同ホテルは古民家の良さを最大限に生かし、歴史や文化を感じながら楽しむことができる。

城下町には古民家ホテルが26か所にわかれており、それぞれ異なる機能を果たしている。

ホテル支配人 稲生侑紀氏:
フロントやお食事処、朝食の場所、クラブラウンジは必ず町並みを歩かないとたどり着かない仕組みになっています。まちを回遊していろいろなお店に気づくことができて、まちのお店の事業者にお金が落ちる仕組みを作ることができる。
夕食で使われるレストランでは、大洲産にこだわった料理と、大洲で昔から使われている砥部焼を使用しているほか、ホテルの1階のショップに並ぶのは、大洲産や愛媛産にこだわった商品だ。古民家の再生だけにとどまらず、大洲の町の経済が回るようになった。

キタ・マネジメント 髙岡公三代表理事:
(以前は)ほとんどのお客様が大洲城と臥龍山荘を見学して、数百円のお土産を買って帰られる典型的な日帰り観光地でした。宿泊でこの街を楽しむという方はほぼゼロだったと思います。
古民家の再生により、新たな雇用も生まれたという。
キタ・マネジメント 髙岡公三代表理事:
雇用はこの4年間で、ホテルとショップで71人生まれています。20事業者ほど入っていただいているので、働ける場所が増えて、地元にとっても喜ばしいことだと思います。