WBCで大谷翔平の前を打った、近藤健介のような働きができるか―

岩手県代表・花巻東で世代ナンバー1スラッガーの佐々木麟太郎の前を打つのは、2番・熊谷陸だ。
佐々木麟太郎とは中学時代・金ケ崎シニアからのチームメート。どうしても高校通算140HRの佐々木に注目が集まりがちだが、岩手県大会からも熊谷の存在は欠かせなかった。
ショートを守っているがピッチャーもこなす。広角に打てる打撃とここぞという場面では小技も決める。足も速く野球センスの塊のような選手。

その抜きんでた「センス」が発揮されたのが、甲子園2回戦のクラーク国際(北北海道)戦だ。

4回、熊谷の打席。打球は1・2塁間をしぶとく抜くライト前ヒットとなるが、熊谷は躊躇せず一気に2塁を陥れた。
普通なら1塁で止まっていてもおかしくない場面だ。
続く佐々木麟太郎の打球はショートゴロ。
しかしここも熊谷は躊躇なく3塁へ走った。
セオリーだと3塁を狙える場面ではない。2塁へ戻りながら3塁へ行くそぶりを見せるのがせいぜいというところ。
そして熊谷が足で生み出した1アウト3塁。
4番・北條は3塁へライナー性の強烈な打球を放つ。
熊谷はここも迷わずホームへ。結果としてこれが貴重な1点となった。チームは2―1で接戦をものにした。

普通ならあり得た別のパターンを想像してみる。
「熊谷のライト前ヒットでランナー1塁」
「佐々木麟太郎のショートゴロでダブルプレー」
「2アウトランナーなしで北條」

・・・野球にタラレバはないが、無得点で終わる可能性もあった。
まさに熊谷陸の「攻めの走塁」が生んだ1点だった。

熊谷のボールがバットに当たった瞬間に走り出す「一歩目の反応の速さ」は際立っている。
北條の打球に対する反応はスローで見ても驚く速さだった。
1アウト3塁ならライナーはバック。抜けてからゴー。
なのに打った瞬間にはホームに向かって走っていた。

大舞台での瞬時の判断が勝負を決めた。チームの方針が選手個々にしっかりと浸透しているのもよくわかる。
「走塁をおろそかにしない」「一塁ベースの奥まで駆け抜ける」
これこそが花巻東の野球。スコアブックに表れない、プレーがある。

宮沢賢治を生んだ岩手・花巻市の野球部員たちが、
1時間半余り試合を止めた「雨」ニモマケズ(クラーク記念国際高校のブラスバンド演奏もすばらしかった)、
試合の順延を余儀なくされた台風7号の「風」ニモマケズ、
ベスト8を狙う。
3回戦の相手は強豪・智弁学園(奈良)だ。