7月の日銀金融政策決定会合で一部政策修正を行い、長期金利は上昇しているものの、市場では円安が進むなど、余波が続いている。
金利上昇も円高ならず。住宅ローン固定金利は引き上げ

日銀はこれまで±0.5%程度としてきた長期金利の変動幅の上限を事実上1%とすることを容認し、長短金利操作を柔軟に運用すると決定。これを受けて、7月28日の円相場は一時138円台前半まで円高が進み、長期金利は上昇傾向に。8月3日、国内債券市場では10年物国債の利回りが、これまで日銀が上限としてきた0.5%程度を超え、一時0.655%をつけ、約9年7か月ぶりの高い水準となった。

金利が上がることで、このまま円高が進むと思われていたが、3日の外国為替市場では、円相場は一時143円88銭をつけ、約1か月ぶりの円安水準となった。市場が金融緩和政策自体の撤回には当面踏み切れないと見透かしたためだ。
8月1日から大手銀行が長期金利と関係する住宅ローンの固定金利を引き上げたが、今回、変動金利の引き上げはなかった。長期金利の引き上げが今後いつ変動金利に影響するのかという関心や不安から、住宅ローン比較サイトへのアクセス数が急増しているという。

アメリカでは、格付け会社のフィッチ・レーティングが8月1日、アメリカ国債の格付けを最上級のAAAからダブルAプラスに1段階引き下げた。

アメリカ国債が格下げされたことで国債が売られ、長期金利は上昇。3日は一時4.2%近くまで上昇し、9か月ぶりの高い水準を付けた。日本よりアメリカの長期金利の上げ幅が上回ったことで金利差が際立ち、円売りドル買いの動きが強まっている。
為替市場の専門家、バルタリサーチの花生浩介氏に話を聞いた。
――日銀の政策修正には円安を修正したいという意図もあったが、逆に円安が進んでしまった。

バルタリサーチ社長 為替ストラテジスト 花生浩介氏:
基本的に今回の修正の内容は悪くないと思うのですが、少しわかりにくいと。最近は海外勢も含めて、投機筋の参入が大きいので、彼らに対してももう少し丁寧に政策の意図を説明していく必要があると思います。
――アメリカ国債の格下げは2社目で、株式市場は大きく反応した。
バルタリサーチ 花生浩介社長:
格下げ発表から3日連続株価が落ちて、VIX指数が上がってきています。夏相場なので流動性の低下もありますから、市場が少し過剰に反応する可能性もあるので要注意だと思います。
――アメリカの株価下落の背景にあるのが、長期金利の上昇だ。
バルタリサーチ 花生浩介社長:
絶対水準として4%台、10年債の利回りはリーマンショック以降の高値水準でもありますから、結構神経質な展開になるという意味においてはかなり注意だと思います。
――長期金利は上がらないという前提だったが、その修正を迫られているのか。
バルタリサーチ 花生浩介社長:
なおかつそこにソフトランディングシナリオが来るとちょっと矛盾してしまいます。ここは株価強気派にとっては消化すべきハードルだと思います。

日銀は長期金利を長らく無理やり押さえ込んできたが、2022年12月に政策修正して0.5%、7月の金融政策決定会合で事実上1%とした。

足元を見ると、政策が決定した日に0.5を上回って、その後どんどん上がってきている。
――日銀はどこまで許容するのか。

慶応義塾大学 総合政策学部 白井さゆり教授:
本当は変動幅を0.5から1%に変えればクリアだったのですが、そうなってしまうと、2%を持続的に実現するまで金融緩和をするという約束と矛盾するので、0.5%を目途として残したわけです。今のところは0.7%を下回るところで何とか国債を買って抑えたいというふうに見えます。

――今回の日銀の政策修正をかつて審議員だった白井氏はどう評価しているのか。
慶応義塾大学 白井さゆり教授:
驚きました。直前までの植田総裁の説明によれば、今はコストプッシュだし、この状況で利上げをすれば経済や雇用にマイナスになるから、低金利を維持するという言い方をされていましたので。2024年に良い意味でのインフレが起きると言っていますが、それはまだ全く今材料がないので、それを見届けてからだと思ったので、見届ける前に事実上の金利を上げるということをしたことにちょっと驚きました。