ケガが完治すれば期待できる理由とは?

東京五輪

今季の橋岡には期待と不安の両方があった。期待できるのは「かなり基礎体力が向上した」(橋岡)こと。「立ち幅跳び、立ち五段跳び、ショートスプリントの数値が上がっています」。
不安は助走が安定していないこと。3月の世界室内では3回ファウルで記録なしに終わった。4月9日の日大競技会は逆に、踏切板まで遠い助走になり、直前で踏切板に合わせに行ってしまった。「オーバーストライドで踏み切りに入りすぎて、足首を痛めてしまいました」。
だが、無理矢理踏切板に合わせた跳躍でも8m07(+0.1)が跳べたし、世界室内は少しのファウルで8m20以上の距離が出ていた。

「世界室内の感覚はすごくよかったです。3回ファウルの要因としては、各国の選手が転戦している中、僕は初めての試合で技術をまとめきれませんでした。(路面がしっかり固定されている)常設トラックかなと思っていたら、(跳ね返りが会場によって異なる特設の)ボードでの試合だった。そういったところでちょっと感覚がズレてしまったところもありました」

森長コーチは今季の跳躍を、技術的にも高い内容になっているという。
「日大競技会のように最後が間延びしてしまった踏み切りの跳躍もありましたが、世界室内では接地の位置が良くて軸ができて、高さも出て、(実測の)距離も出ていました」。

日大競技会は「気持ちが入りすぎたのか脚を回しすぎた」(同コーチ)ため、助走で予定のストライドにならなかった。踏み切り4歩前が約10m手前になっていたという。9.0~9.4m付近であれば本来のストライドで踏み切りに入って行ける。

出場予定だったゴールデングランプリ(5月8日)の目標を取材したときは「小さくまとまらないように日本選手権に向けて模索していく」と話した。橋岡はしっかり重心に乗り込んで、大きな反発を地面から受け取ることが本来の助走である。そのときの状態次第ではスピードを上げるために脚を回す必要も生じるが、今は「一度、我に戻って自分を見直す」ことをしていくと話していた。

足首の不安が日本選手権までになくなれば「バンと上げる助走ではなく、バーンバーンと上げていく助走」(森長コーチ)を行う。一番避けたいのはケガを悪化させ、世界陸上でパフォーマンスを下げてしまうこと。橋岡の日本選手権は順位争いが重要だが、正しいストライドで踏切に入って行ければ、8m22の世界陸上参加標準記録突破は難しくない。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)